2026.10.13

勉強会1時間の準備に30時間。その誠実さの行方|芝を刈らないリーダー 第1回

The Leader Who Doesn't Mow the Lawn

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連載「芝を刈らないリーダー」第1回

社内勉強会の資料づくりを、本業の合間に一人で抱えていないでしょうか。研修づくりの専門家がチームで分担する仕事を、リーダーが一人で背負っている。この連載では、そのリーダーの時間の使い方から、社内教育を見直していきます。

人がいるから、組織が成り立つ

かつての大量生産の時代、人は働いた時間で測られていました。代わりはいくらでもいる、という前提です。

今は違います。一人ひとりの知見や工夫が価値を生み、組織の力はそこにいる人たちの可能性で決まります。人的資本という言葉もよく聞くようになりましたが、私はもっと単純に、人を使い捨てにせず、関わるほど伸びていく資本として大事にすること、と受け止めています。

意欲のある人ほど、給与の額だけでなく、ここでどれだけ成長できるかを見ています。組織があるから学びがあるのではなく、学ぼうとする人がいるから組織が成り立つ。そう考えると、メンバーを育てるリーダーの役割も見え方が変わってきます。

1時間の勉強会に、平均30時間

本来、学びの場をつくるには3つの準備が要ります。

  1. 設計:ゴールを決め、話の筋と進め方を組み立てる
  2. 開発:考えを言葉にし、誰でも学べる教材にする
  3. 演出:当日の場をどう動かすかを考え、振る舞いを準備する

研修づくりの世界では、講師が教える1時間の研修を仕上げるのに、平均43時間かかるとされています(Chapman Allianceの2010年の調査。人材開発の国際団体ATDも紹介しています)。しかもこれは、設計者や制作者が分担したチーム全体の時間です。

では、現場のリーダーはどうか。20社以上のリーダーに聞いてみると、1時間の勉強会に平均30時間ほどを準備にかけていました(当社調べ)。

専門家のチーム

43時間

1時間の研修あたり・分担して

現場のリーダー

30時間

1時間の勉強会あたり・本業の合間に一人で

専門のチームが43時間かける仕事を、本業の合間に一人で30時間。頭が下がる一方で、正直に言えば、サンダルで富士山に登ろうとしているようにも見えます。

細切れの時間で1時間分を埋めようとすると、中身はどうしても情報の羅列になります。それではメンバーの行動は変わりにくい。頑張ったのに手応えがない。それが続くと、リーダーの熱意のほうが先にすり減っていきます。

そして、資料づくりに追われるうちに、メンバーと話す時間が後回しになる。教育のために始めたことが、教育でいちばん大事な時間を削っている。私はこの構図に、何度も出会ってきました。

ある社長の週末

ある通信会社の社長から聞いた話です。

社員向けの勉強会を開くことになり、資料は自分でつくると決めた。平日は本業で手が回らないので、作業は週末と、帰宅したあとの時間です。それでも終わらず、資料づくりは勉強会の当日まで続きました。

話す準備をする時間は、もう残っていませんでした。本番は資料を読み上げるだけで精一杯。社員の反応もいまひとつだったそうです。

この社長は、手を抜いたわけではありません。むしろ誰よりも時間をかけていました。それなのに、当日の場をどう動かすかという演出には、まったく手が回らなかった。時間のほとんどを、資料づくりに吸い取られていたのです。

程度の差はあっても、多くのリーダーに覚えのある話ではないでしょうか。

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名監督は、試合直前に芝を刈らない

新幹線の中や会議の合間、夜遅くに一人で画面に向かい、フォントのずれを直し、合う画像を探す。そんな自分の姿を、一度外から眺めてみてください。

メンバーにいい学びを届けたい。その気持ちから出ている行動なのは、よくわかります。ただ、その間にメンバーが小さなSOSを出していたら、見逃してしまうかもしれません。エースの心が離れていくのは、案外そういう時期です。

プロ野球の監督が、試合直前に自分でグラウンドの芝を刈っていたらどうでしょう。

そんな時間があるなら、選手の調子を見て作戦を考えてくれ。

誰もがそう思うはずです。資料の細部に没頭するリーダーは、この監督と少し似ています。自分で完結できる作業には安心感があります。それでも、リーダーが向き合うべきは画面ではなく、隣で働いているメンバーです。

前回の勉強会を振り返ってみる

最後に、直近の勉強会の準備を思い出してみてください。ざっくりで構いません。

  1. 全体:準備に全部で何時間かかったか
  2. 設計:話の構成を考えるのに使った時間
  3. 開発:スライドや資料をつくるのに使った時間
  4. 演出:話す練習や、当日の問いかけを考えるのに使った時間
  5. その間に、メンバーと話す時間を削っていなかったか

設計と開発にかけた時間が、演出にかけた時間よりずっと長かったなら、時間の使い方を見直す余地があります。

次回は、多くのリーダーに共通する30時間の内訳と、時間をかけてつくった完璧な資料が、なぜメンバーを受け身にしてしまうのかを考えます。

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この記事を書いた人

渡邉良文(わたなべ・よしふみ)

株式会社ヒップスターゲート FOUNDER 兼 CEO

人が勝手に育っていく職場の仕組みづくりをテーマに、株式会社ヒップスターゲートを16年かけてゼロから育ててきた。同社が研修を手がけた企業は650社を超え、現在は上場企業ビズメイツ株式会社のグループに加わっている。著書に『勝手に人が育っていく! 社員100人までの会社の社長のすごい仕掛け』(かんき出版)。

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