COLUMN / 新入社員育成
答えがすぐ出る時代に、
新人は何を鍛えるのか
2012年に書いた新入社員研修の冊子を、今読み返す
文 渡邉 良文 / 株式会社ヒップスターゲート FOUNDER兼CEO
2012年に、新入社員研修についての小さな冊子を書きました。実行力を高める新入社員研修の在り方という題の、十数ページの冊子です。
当時の冊子を読む
実行力を高める新入社員研修の在り方
PDF / 全14ページ / 2012年発行当時のまま掲載
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久しぶりに読み返してみると、さすがに古くなったところがあちこちにあります。ゆとり世代という言葉も、携帯電話の普及率のグラフも、今となっては時代を感じます。ただ、書いてあることの芯は、生成AIが仕事に入ってきた今のほうが当てはまるように思いました。そこで、当時の内容を今の目で読み直しながら、あらためて書いてみます。
01
ゆとり世代と呼ばれた新人たち
当時の新入社員は、ゆとり世代と呼ばれていました。堅実で、コミュニケーションが苦手で、ストレスに弱い。メディアではそんなふうに語られることが多かったと思います。
実際のところはどうなのか知りたくて、現場の方々にアンケートをお願いしました。まじめ、消極的、失敗を恐れるといった、堅実さにつながる答えが半分ほどを占めたのは、世間のイメージどおりです。一方で、コミュニケーションが苦手だとか、ストレスに弱いと感じている方は、それほど多くありませんでした。今までの新人と特に変わらないと答えてくださった会社も10社ありました。
堅実なのは悪いことではありません。そこに実行力と決断力が加われば、頼りになるビジネスパーソンになります。世代の呼び名はその後も何度か入れ替わりましたが、メディアの言う世代像に振り回されず、目の前の一人ひとりを見るほうがいいという考えは、今も変わっていません。
ひとつだけ気になっていたことがあります。2012年の春に、新入社員1000人あまりの研修を担当しました。そのときに受けた印象を、冊子にはこう書いています。
知識は優れている。
けれど、知恵の点では不安を持つ人が多い。
2012年の冊子より
答えのある問題は得意で、資格の勉強にも熱心です。ところが答えの決まっていない課題を渡すと、どう進めればいいのか分からずに止まってしまったり、すぐに正解を聞きに来たりする人が目につきました。仕事では答えの決まっていない課題のほうが多いので、そこが心配でした。
当時の私は、その理由のひとつをインターネットに見ていました。ゆとり教育は、自分の頭で考える時間をつくろうという教育だったはずです。ところが同じ時期に、知りたいことは検索すればすぐ出てくる環境が整っていきました。考える時間をもらった世代が、考えなくても答えにたどり着ける道具を手にしていたわけで、皮肉な話だと書きました。
02
検索がAIに変わった
検索で手に入るのは情報でした。それを読んで整理し、自分なりの形にまとめる作業は、まだ本人がやるしかありませんでした。
生成AIは、そのまとめる作業まで引き受けてくれます。報告書も企画書もメールも、頼めばそれらしいものが出てきます。知識をどれだけ持っているかで新人に差がつく場面は、これからもっと減っていくでしょう。
冊子の中に、こんなことを書いたくだりがあります。ビジネスは、持っている知識を実行に移し、成果を出して、ようやく人から評価されるものです。評価するのは自分ではありません。どんなに優れた計画でも、実行する人がいなければ何も生まれません。
誰でも知識に手が届くようになった今、このくだりは書き直すところがありませんでした。知識の差が小さくなれば、あとは実行するかどうかの差が残ります。
03
氷山の、水面の下
冊子では、人の能力を氷山にたとえて説明しました。水面から出ているのは全体の2割ほどで、知識やスキルがこれにあたります。必要になればいつでも身につけられる部分です。残りの8割は水面の下に沈んでいて、こちらは早いうちに育てておかないといけません。
いつでも身につけられる
知識・スキル
水面
他者貢献
誰のために働くのか
自己基盤
なぜ、何のために働くのか
早いうちに育てておきたい
水面の下にあるのは、自己基盤と他者貢献の二つです。自己基盤は、なぜ働くのか、何のために働くのかという、仕事に向き合うときの価値観のことです。他者貢献は、誰のために働くのかという意識で、会社やお客様の期待に応えようとする気持ちを指します。私たちの研修は、ずっとこの水面下に力を入れてきました。
当時の新入社員研修では、ロジカルシンキングがよく取り上げられていました。問題を見つけてから解決するまでの筋道を整理する考え方ですが、新人が現場ですぐに使えるかというと、私は難しいと思っていました。そもそも現場で何が問題なのかに気づけないからです。問題が見えていなければ、解き方をいくら知っていても使いどころがありません。
今は、問題の解き方のほうはAIがかなり手伝ってくれます。氷山でいえば、水面から上の部分です。それでも、何が問題なのかに気づくのは、現場にいる本人の役目です。そして気づけるかどうかは、何のために、誰のためにその仕事をしているのかを本人が分かっているかどうかに左右されると思っています。
当時の研修では、オタクではなくプロになってほしいと話していました。今はオタクという言葉の受け取られ方がずいぶん変わったので、少し説明を足します。言いたかったのは、身につけた知識を自分のためだけに使うのか、人のために使うのかという違いです。資格を取ったり知識を増やしたりすること自体は立派ですが、それが自分の満足で終わってしまえば仕事にはなりません。相手の立場で考えて、期待された以上のものを返し、喜んでもらって対価をいただく。それがプロだと伝えていました。
何のために、誰のために働くのかがはっきりすると、そのために必要な知識やスキルを覚えようという気持ちが自然に出てきます。冊子ではこれをスタンスの変革と呼んで、新入社員研修でいちばん大切な部分だと書きました。この考えは今も同じです。
04
三つの意識と、その鍛え方
水面下を育てるには、意識から変えていく必要があります。人は意識が変わらないと行動も変わらないからです。冊子では、目的意識、自責意識、自己管理意識の三つを挙げ、それぞれの鍛え方も書きました。どれもノート一冊あればできる地味な方法ですが、今でも十分使えると思います。
その一
目的意識
大きな仕事がしたいと意気込んで入社しても、最初に回ってくるのは球拾いのような仕事です。この落差に戸惑って、ここは自分のいる場所ではないと感じてしまう人がいます。ただ、どんな仕事にも目的はあります。それが分かれば、自分がどこへ向かっているのかが見えてきますし、成長も実感できます。
ノートを縦半分に折って、左側にその日にやった仕事を全部書き出します。右側には、それを何のために、誰のためにやったのかを書きます。右側が書けなかった仕事は、目的を考えずにこなしただけの作業だったということです。1日や2日で変わるものではないので、1、2週間は続けてみてください。そのうち、手を動かす前に目的を考える癖がついてきます。
AIに仕事を頼むときも同じで、何のために頼むのかを自分で書けないうちは、出てきたものの良し悪しも判断できません。
その二
自責意識
自責の反対は他責です。冊子では電車の遅れを例にしました。大雨や雪で電車が遅れそうだと分かっているのに、いつもと同じ時刻の電車に乗り、遅延証明書をもらって遅刻を済ませてしまう。これが他責の考え方です。自責意識が身についている人は、遅れそうだと思った時点で早めに家を出ます。
誤解されやすいのですが、自責意識というのは、何でも自分のせいだと抱え込むことではありません。目の前の問題に対して、自分にできるいちばんいい手は何かを考えて、実際に動くことです。
これもノートを使います。その日にうまくいったことと失敗したことを書き、それぞれに理由を添えます。そのとき、理由の主語を必ず私にします。遅刻をしたのなら、電車が遅れたからと書くのをやめて、私が早く家を出なかったからと書く。これを続けていると、周りのせいにしない考え方が少しずつ身についてきます。
AIの出した答えをそのまま使って間違えたときも、AIが間違えたからとは書けません。それを使うと決めたのは私だからです。
その三
自己管理意識
自分を律する、いわゆるセルフコントロールのことですが、私はこれを、相手の立場から自分を見る想像力だと考えています。たとえば夕方に社外向けのプレゼンテーションがあるとします。体は疲れていても、聴きに来てくださる方のことを思えば、笑顔で話そうという気持ちになるはずです。
鍛え方としては、簡単な360度サーベイをおすすめしていました。項目は表情、姿勢、あいさつの三つくらいで構いません。本人が5段階で自己評価をして、周りの人にも同じ項目で評価してもらい、二つを見比べます。自分ではできているつもりでも、周りからはそう見えていないことがあります。その食い違いに気づくと、意識が変わります。毎日やる必要はなく、2、3週間に一度で十分です。
文章はAIに整えてもらえますが、自分の表情や態度が人にどう見えているかは、周りの人に聞いてみないと分かりません。
この意識は、新人だけに求めるものでもありません。冊子には、いつも渋い顔をしている上司の話を書きました。部下がその顔を恐れて、ミスを報告せずに隠してしまったとします。隠した部下にもちろん問題はありますが、私は、報告しにくい雰囲気をつくっている上司のほうにより大きな問題があると思っています。最近は心理的安全性という言葉でよく語られるようになりました。自分の立場が周りにどんな印象を与えているかに気を配ることは、当時も今も上に立つ人の大事な仕事です。
三つとも根気のいる取り組みです。研修の期間だけで終わらせず、配属されてからも続けてもらえれば、早い人なら1カ月ほどで意識や行動に変化が見えてきます。
05
研修を仕事として扱う
学生のころは、講義を聴いて覚えるという学び方が中心です。けれども職場では、上司や先輩がいつも隣について教えてくれるわけではありません。分からないことはまず自分で調べ、それでも分からないところを自分から聞きに行く。新入社員には、そういう学び方に切り替えてもらう必要があります。
人は、話を聞いただけのことより、自分でやってみたことや人に教えたことのほうをよく覚えているものです。ところが集合研修は、どうしても現場の仕事と切り離されがちで、新入社員研修ではそこがいつも悩みの種でした。そこで私たちが勧めてきたのが、OFF-OJT®というやり方です。集まって行う研修ではあるのですが、そこでやる作業を仕事として扱います。成果を出してもらい、それを評価する。その繰り返しで育ってもらおうという考え方です。
うまく進めるためのポイントを、冊子では三つ挙げました。読み返すと、当時の私はずいぶん強い言葉で書いています。今ならもう少し言い方を選びますが、言いたいことは変わりません。
1
お客様として迎えない
会場がきれいに整えられていて、迷わないように案内係が立ち、テキストは一人ずつ手元に配られる。親切なようですが、これでは新入社員がお客様の気分になってしまいます。会場の机の並べ方ひとつでも、自分たちが学びやすい環境は自分たちでつくってもらうほうがいいと思っています。研修後のアンケートにも同じことが言えます。研修の内容を評価してもらうと、評価する側の気分が残ります。それよりも、何を学んだかを書いてもらって復習にあてるほうが、本人のためになります。
2
まずやってみてもらう
失敗したくないとき、人はつい、もし、でも、だって、と口にします。気持ちは分かりますが、やってもらわないことには評価のしようがありません。ですから講師は、仕事なのでまずはやってみましょうと伝えます。そして終わったあとには、必ずお互いに向き合って振り返りをします。やらせっぱなしにしないことが、次の仕事への姿勢につながります。
3
石橋を壊させない
石橋を叩いて渡るのは構いません。困るのは、渡った先で失敗するのが怖くて、渡るのをあきらめるどころか橋そのものを壊しはじめる人がいることです。橋がなくなれば失敗することもなく、今の立場が崩れることもない、という安定志向から来る考えなのだと思います。研修ではこう話しています。橋があるうちに向こう岸へ行ってみてください。向こうで失敗しても、橋があるのだから戻ってくればいいんです。
失敗というものは、頭で分かってもらうより、体で感じてもらうほうが身にしみます。だから研修は、気持ちよく失敗できる場所にしておきたいのです。わざと失敗するような流れを組むこともありますが、そのあと振り返って直していけば、失敗から育つという経験をしてもらえます。
AIのおかげで、試しに何かをつくってみる手間はずいぶん小さくなりました。向こう岸に渡ってみない理由は、当時よりも少なくなっていると思います。
06
まじめに、楽しむ
嫌々働いている人より、大変でも楽しんで働いている人のほうが成果を出しますし、育つのも早いものです。研修も同じで、つらい中にも楽しさがあるほうが身につきます。まじめすぎても、楽をしすぎてもうまくいきません。その間のちょうどいいところを、冊子ではシリアスファンと呼びました。
これを形にするために、2011年の8月から研修にゲームの要素を取り入れました。架空の会社に入社して、企画開発から販売までをチームで体験する、Do★Do★Doというビジネスゲームです。途中で景気が悪くなって売上が落ちるのに、予算は変えてもらえない、といった出来事をわざと入れてあります。慣れてしまうと人は育たなくなるので、本人が予想していない課題にぶつかってもらうためです。
このゲームをつくるときに大事にした考えがいくつかあります。与えられた課題をどうやって達成するかは自分で決めてもらうこと。それから、計画を念入りにつくり込むより、4、5割できたところで実行に移して、動きながら直していくこと。計画に時間をかけすぎて、企画倒れに終わるのを避けたかったからです。
07
配属されてから
研修が終わると配属です。そこから先のOJTがうまくいくかどうかは、三つの土台にかかっていると冊子に書きました。
1
人間関係
新入社員は、まず相手に信用してもらえるように努力し、やがて信頼され、最後には信望を得るところまで行かなければなりません。この順番を、本人に分かっておいてもらいます。
2
指導者の心構え
指導する側は、いつも新入社員に背中を見られています。遅刻するなと指導した本人が遅刻をすれば、言われた側は裏切られたと感じますし、その気持ちを元に戻すにはかなりの時間がかかります。手本になる立場だということを忘れないでいてほしいのです。
3
会社全体で支える
指導役を任されるのは、入社3年目から5年目くらいの人が多いと思います。リーダーになる手前で、自分の仕事もたくさん抱えている時期です。そのうえに新人の指導が乗るのですから負担は大きく、調子を崩してしまった例もあります。ですから、指導役を支える人が要ります。それは上司の役目です。その責任を最初にはっきりさせておき、人事にも加わってもらって、三者で一緒に育てていく形をつくります。
人に教えると、教えた側もよく覚えるものです。OJTは、新入社員と指導者が一緒に育っていく共同作業だと考えています。
それで私たちは、配属の前に、新入社員と指導者が同じ研修を一緒に受ける機会を設けてきました。研修はふつう階層ごとに分けて行いますが、ここは分けません。指導者が抱えている不安を配属前に軽くしておきたいのと、新入社員にどう育ってほしいかを二人ですり合わせておきたいからです。育成計画を一緒につくると、その人に合った育て方ができますし、一緒に作業をするうちに話もしやすくなって、現場に出てからの関係づくりが楽になります。
もうひとつ勧めてきたのが、手書きのノートです。新入社員が一生懸命に書いたものに、指導者が赤ペンで書き込んで返します。交換日記のようなもので、書き込みが返ってくると素直にうれしいものです。それに手書きだと、字が雑になったとか、書く量が減ったといった変化が目に見えるので、様子がおかしいときに早く声をかけられます。当時、ITでやるとごまかしが利いてしまうと書きましたが、日報をAIが整えてくれる今は、なおさらそうだと感じます。
最後にマナーの話を少しだけ。指導者も上司も人ですから、礼儀正しい相手には気持ちよく接することができますし、もっと教えてあげたいとも思います。ただ、社会人なのだからマナーを学びなさいと言っても、新入社員の心には届きません。マナーが身についていれば、自分の考えを目上の人にも誤解なく伝えられる。逆に身についていないと、正しいことを言っていても聞いてもらえないことがある。そう説明すると、新入社員は素直に学んでくれます。
結びに
まずやってみる人を育てたい
計画を立て、実行し、評価して、改善する。仕事をこの順番で進めることは、今も大切にされています。ただ、結果を求められる現場では、最初の計画のところで足が止まって、そのまま先へ進めなくなることがよくあります。人はやってみて初めて気づくことが多いので、まずやってみて、失敗したら見直す、その繰り返しで学んでいくほうが自然ではないかと思うのです。
計画を軽く見ているわけではありません。けれども、慎重になりすぎて、やっとの思いで仕上げた計画を実行に移すころには時機を逃していた、ということになっては元も子もありません。冊子の最後にも、そう書きました。
今は、計画づくりもAIが手伝ってくれます。そうなると、なおさら大事になるのは、実際にやってみる人がいるかどうかです。新入社員にまず身につけてほしいのは実行する力だという考えは、14年たっても変わりませんでした。
明日の扉を開くのは、今日の実行だと信じています。
著者
渡邉 良文わたなべ よしふみ
株式会社ヒップスターゲート FOUNDER兼CEO。富士通株式会社に勤めたのち、人材育成のコンサルティングに携わる。新入社員から管理職まで、企業の人材育成を幅広く手がけている。
本稿は、2012年に発行した冊子をもとに、今の視点で書き直したものです。
OFF-OJTは、ヒップスターゲート株式会社の登録商標です。
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