連載「芝を刈らないリーダー」第2回
前回は、1時間の勉強会に平均30時間をかけるリーダーの実態をお伝えしました。今回はその30時間の中身を分けて見たうえで、時間をかけた完璧な資料が、かえってメンバーを受け身にしてしまう理由を考えます。
30時間のうち24時間は、資料を形にする作業
前回の最後に、勉強会の準備を振り返ってもらいました。多くのリーダーに聞き取った30時間を同じように分けると、おおよそ次のようになります(当社調べ)。
8割にあたる24時間が、資料を形にするまでの設計と開発に使われています。メンバーの前に立つ演出の準備は、残りのわずか6時間です。
白紙を前に手が止まるのは当然です。脚本を書き、大道具を組み、照明まで吊るす。劇場づくりを、一人でやろうとしているのですから。
しかも、これだけ時間をかけた資料が、思ったほど効いていないことがあります。むしろ、完璧に仕上げた資料ほど、メンバーを受け身にしてしまうのです。
隙のない資料は、考える余地を残さない
情報がきっちり埋まった資料を前にすると、人は受け取る側に回ります。あとは聞いていればいい、と考えるのをやめてしまう。勉強会でメンバーの目がどこか泳いでいるのは、資料のどこにも自分が入り込む余地がないからかもしれません。
これは、かつての私そのものです。
業績が落ちていた時期の私は、心のどこかでメンバーを信じていませんでした。ここまで書かないとわからないだろう、と資料に正解を詰め込んでいた。今思えば、ただの思い上がりです。思い出すと恥ずかしくなります。
もし心当たりがあっても、気づいた今日から変えれば十分です。
正解ではなく、空白を渡す
人が自分から動き出すのは、誰かに言われたときではなく、自分の中で「やってみたい」と思えたときです。心理学では内発的動機づけと呼びます。そのきっかけになるのは、リーダーが用意した正解ではなく、メンバーが自分で埋める空白です。
メンバーが自分の頭で考え、自分の言葉で埋めたとき、組織の目標はリーダーからの借り物ではなく、本人の意志に変わります。私が目指したいのは、今日より明日、少しだけいい顔で働ける組織です。資料を完璧に整えて一方的に渡すだけでは、そこには近づけません。
同じ中身でも、渡し方で残り方が変わる
報連相の勉強会を例に、1枚のスライドで比べてみます。
答えを先に渡すスライド
報連相の3つのポイント
1. 早めに伝える
2. 事実と意見を分ける
3. 結論から話す
メンバーは読んで、うなずいて終わる
考えてから受け取るスライド
報告が遅れて困ったのは、どんな場面でしたか?
ここに書き出す
書き出した場面をもとに、3つのポイントを示す
伝える中身は同じです。違うのは、答えを先に渡すか、自分の経験を思い出してから受け取るか。後者では、3つのポイントが自分の失敗と結びつくので、翌日の行動に残りやすくなります。
空白をつくる3つの方法
資料に空白をつくるのに、特別な技術は要りません。次の3つから試してみてください。
- 結論を問いに変える:「〇〇が大切です」と書く代わりに、「〇〇がないと、何が起きる?」と問いかける
- 事例の結末を伏せる:失敗事例を途中まで見せて、「このあと、どうなったと思う?」と聞く
- 書き込む欄を残す:自分の職場ならどうなるかを書く欄を、スライドの中に用意しておく
どれも、資料を減らす工夫です。つくり込むほど良くなるのではなく、あえて残した余白が、メンバーを当事者に変えます。
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無料「心理的安全性の型」をダウンロード完成したときの達成感に気をつける
スライドが仕上がった瞬間の、やり切った感覚。あれには注意が要ります。スライドの完成はゴールではなく、メンバーとの対話の入り口にすぎないからです。
資料づくりに力を使い果たし、本番の対話では余力が残っていない。そんなリーダーを、私はたくさん見てきました。作業の達成感ではなく、メンバーが変わった手応えで満たされたいところです。
設計と開発は、すでに磨かれた型に任せてしまえばいい。そこに自社の方針と自分の経験を少し足し、残りの力を当日の場づくりに使う。浮いた24時間は、メンバーとの対話や、次の一手を考える時間に回せます。
次回は、社内教育を投資として捉え直し、リーダーの時間をどこに使うべきかを考えます。
まなびスライド
資料づくりは型に任せて、リーダーは場づくりに集中する
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- 心理的安全性の不足によって生じる4つの不安
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この記事を書いた人
渡邉良文(わたなべ・よしふみ)
株式会社ヒップスターゲート FOUNDER 兼 CEO
人が勝手に育っていく職場の仕組みづくりをテーマに、株式会社ヒップスターゲートを16年かけてゼロから育ててきた。同社が研修を手がけた企業は650社を超え、現在は上場企業ビズメイツ株式会社のグループに加わっている。著書に『勝手に人が育っていく! 社員100人までの会社の社長のすごい仕掛け』(かんき出版)。
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