ジョン ジェームズ リンチが語るグローバルリーダーシップとは
2022.10.25
ツイート弊社ヒップスターゲートは、企業の成長や発展を担う「次世代リーダー像」を探るべく、有識者の方々をゲストに迎え、8月から12月にかけて全5回の無料オンラインセミナーを開催いたします。本記事は、2022年10月6日に開催した第3回セミナーより、『グローバル時代に求められるリーダーシップとは』をまとめたものです。グローバルリーダーの育成にお役に立てますと幸いです。
「グローバル時代に求められるリーダーシップとは」
セミナーの目的昨今、あらゆる業種・業界においてグローバル市場の環境変化が国内市場に与える影響が拡がっています。ドメスティックな企業においてもグローバル化の波は不可避でしょう。 そのような時代に求められるリーダーシップを解き明かすべく、本セミナーを開催いたしました。
セミナーの内容チームワークを基本とした日本型の働き方と、スピーディーで競争の激しいグローバルビジネスの個人プレーを基本とした働き方。それぞれの強みを組み合わせた「ハイブリッド型」のリーダーシップとは何か。 グローバルビジネスにおける、さまざまな課題の解決施策を提案する、J-Global社CEOのJon James Lynch氏をお招きし、グローバル時代に求められるリーダーシップについて、お話しいただきます。
グローバル時代のリーダーシップとは
本日は、グローバル時代に必要なリーダーシップについてお話しをします。私はイギリスからやってきて、日本に30年以上住んでいます。もう半分は日本人と言えます。 私異文化コミュニケーションやビジネスコンサルタントを専門として、様々な企業を支援してきました。企業をサポートする中で多く企業が共通して抱える問題がありました。 この問題について、本日はできるだけ皆さんに共有して、一緒に考えていきたいと思います。
日本のグローバル化ギャップ
働き方の大前提として、日本人はチームプレーで働き、外国人は個人プレーで働くことが基盤とされていることが多いです。 日本人のチームプレーは世界一なのですが、実はここがグローバルな環境で円滑に仕事をする上でネックになるんですね。なぜなら外国人にとって日本のチームプレーは参加しにくいからなんです。例えば、「暗黙の了解」は外国人にとって難易度が高く、透明性のあるチームだと外国人は参加しやすいです。 また、国ごとでもリーダーシップは違う傾向が見られます。 次のスライドは、スイスにある国際経営開発研究所が発行している63ヵ国における日本の競争力をランキング化したものです。
2020年のアンケート結果ですが、日本のランキングは低いですね。中身を見ると、グローバル化に対する態度や高度な技術を持った外国人人材が少ないことが競争力の低さに表れています。 日本で働く外国人の多くは、日本人に比べて生産性が低い傾向があります。その原因は、研修のやり方が彼らに合っていないことや、キャリアに対する日本人の考え方を当てはめてしまうため能力が活かしきれていないことなどが挙げられます。加えて、個人プレーやチームプレーといった経営手法の違い、日本人の語学スキルも競争力の低さの原因に挙げられます。 日本人を見ていると、「自分は英語が苦手だ」と感じている人が多いですね。でも英語は世界共通言語ですから、間違っていい言語なんですよ。けれど、学校での教育経験もあって「完璧に話さないといけない」という意識が働いてしまうようです。それで、日本人は分からないときは「黙る」という選択肢を取っているように見えます。 一方で、日本企業の強みは、「人材を惹きつけ定着させる能力」と「従業員のトレーニングに投資をしている」ということがアンケート結果から明らかになっています。OJT研修や階層別研修が充実しており、様々な職層の人に有効に働いていることが分かります。
グローバルリーダーシップの3要素
様々な国の傾向を踏まえると、グローバルリーダーシップは、「複雑さ」「フロー」「存在感」の3つに分けることができます。
まず「複雑さ」についてお話しします。国内でリーダーシップを発揮する際は、いずれの組織も、似たようなバックグラウンドと似たような価値観を持っているメンバーがいることから、リーダーシップの型にあまり違いは表れないですよね。 しかし、異なった価値観を持つ外国人が組織に在籍するグローバル環境では、お互いを理解してリーダーシップを発揮しなければならないため、複雑さが増します。 「フロー」については、外国人が在籍する組織では、情報の流れも難しくなるといえます。例えば、海外支社と物理的な距離があること、外国人は個人プレーを基本としているため日本より情報が回るのが遅いなど、様々な理由が挙げられます。そのため、グローバルリーダーシップには、言語、文化、教育、宗教などを越境してリソースを配分し目的を達成する技術が求められるのです。 次に存在感です。これは、職務上必要とする身体的な動きのレベルのことです。私たちは最近対面で会うことが少なくなりましたよね。Zoomなどのオンラインツールで繋げることが増えました。 では、これらの3つの要素についてもう少し深堀していきましょう。
1. 複雑さ
複雑さに対してはいくつかの課題があります。 近年、多様性という言葉を耳にすることが増えましたね。国によってお客様のニーズが違うことはもちろん、特にビジネススタイルや働き方、働く目的が違うことに対して、多様性を感じます。 多様な人がいるグローバル環境では、お互いが協力をしなければなりません。違ったアイデアを取り入れ、互いの仕事の進め方に関して歩み寄る必要があります。 また、文化や考え方が多様なほど、アイデアや仕事の進め方のパターンが増えるため、明確な回答が出しにくくなります。例えば日本の文化には「曖昧なこと」が多いです。日本人の「はい」は必ずしも「イエス」ではないですし、「大丈夫」という言葉も大丈夫ではないのに使いますよね。 日本の「暗黙の了解」は外国人には通用しません。もっと具体的に説明しなければならないです。特にキャリアパスについては明確にしなければなりません。 日本で働く多くの外国人が言うのが、日本組織における自分のキャリアパスが見えないということです。例えば、「課長になりたい」と言うと、「場合による」と回答が返ってくるわけです。何年かかるとか、どんな能力が必要かとか、それらが明示されないため、外国人は会社を辞めてしまうんですね。 あとは変化です。人、状況は常に変化しているにも関わらず、日本の意思決定は遅いと感じます。現場ではとっくに答えが出ているのに、長い長い社内稟議が必要だったり、場合によっては「根回し」をしておかないといけないなど、すぐに意思決定がされないところが日本の弱みだと言えます。
2. フロー
情報がスムーズに行きわたるようにするのもグローバルリーダーシップの役割です。 そのためには、環境に馴染むための「適合性」、そして互いの「共感」と「理解」、様々な意見や相手自身を受け入れる「多様性に寛容な姿勢」が求められます。 何より多様性は強みになります。例えば、人間関係が得意な人と論理的に考えることが得意な人、このような性格や特徴が違う人同士が組むことで、より強いチームが形成されるのです。
3. 存在感
次に存在感についてもう少しお話ししていきましょう。コロナの影響もあって昨今ではオンラインでのコミュニケーションが増えました。これによって人間関係の構築が難しくなっています。 ところで皆さんはお酒を飲まれますか? 実は「飲みニケーション」ってとても役に立っていて、これまではお酒の場で良い人間関係が構築できていたのですが、今は難しいですよね。ではどうやって良好な人間関係を構築するかというと、リーダーがメンバーのことを「ちゃんと見ていますよ」「支援しますよ」という姿勢を示すことが重要なんです。また、組織のルールなど、何かが変化するときは、メンバーが理解できるまで丁寧に説明する必要があります。 会社のトップが「来月からはこの方針でやっていくから」と下に示すことがありますが、下の意見は汲み取られず、一方的に決定していることが多々あります。これでは、良い関係は構築できないのです。 また、グローバルリーダーシップという観点でいうと、リーダーは外国人に日本組織ではこうした方が良いと詳細に説明することが重要です。 特に外国人が理解していないことは「報連相」です。こういうことを説明しなければ、彼らは組織に良い影響を与えられないですし、信頼を得ることも難しいです。
文化による傾向の違い
より効果的にグローバルリーダーシップを発揮するために、リーダーは文化による違いを把握しておくとよいですね。
例えば、ミーティングの場面では、アメリカ人は積極的に意見を言う人が多く、消極的な人は少ないです。 一方で、日本人は先に他の人の意見を聞きたい傾向にあるので、消極的な人が多く、積極的に発言する人は少ない傾向にあります。 日本とアメリカが対極にあるとすると、この間に他の国が位置します。ドイツやインド、中国はアメリカに近いです。近年では、アジアの国々のビジネススタイルが変化し、ヨーロッパに近い傾向が表れており、日本とのギャップが見られます。 当然、日本もグローバル化を意識していて、メンバーシップ型からジョブ型へ切り替えたり、外国の個人プレーに近いような明確な目標を設定するなど、ビジネススタイルを変化させつつあります。 同時に、海外ではチームプレーをやろうとしているため、お互いに歩み寄り始めているけれど、まだギャップがありますね。 一番わかりやすいギャップは「コンテキスト(背景情報)の明確化」ではないでしょうか。 日本人の実情は「一を聞いて十を知る」というような低コンテキストです。つまり言葉の背景について多くを示さないということです。全部を言わなくても分かることが日本人の強みですが、多様な文化の人が一緒に働いている現場では、低コンテキストではなく、高コンテキストでなければなりません。 5W3Hで全部説明しないとわからないんですね。特に何かを依頼するときは、「なぜ(Why)」を伝えることが重要です。 日本では、相手も事情を分かっていることが前提にあるので、この「なぜ(WHY)」を説明しないことが多いです。しかし、外国人にはWhyとMerit(利点)の2つの観点を伝えて依頼することが大事です。 相手にとっての利点や、やらないことで失うベネフィットを説明すると相手は動きます。
リーダーシップモデル
異文化から生じるギャップは多々あるので、リーダーシップモデルにも様々な型があるのですが、ここでは2つのモデルを説明します。 1つは「ステイトリーダーシップ(State Leadership)」です。前提として各自の役割がはっきりしていて、具体的なアクションが事前に決まっています。職務記述書(JD)にはっきりと責任が示されているんですね。これは特にジョブ型/マトリックス型組織によく見られます。 もう1つが「プロセスリーダーシップ(Process Leadership)」です。チームの進め方はリーダー次第で、役割と職務責任は後からついてくるモデルです。これは特にメンバーシップ型/アメーバ型組織に見られます。 明らかに日本は後者のプロセスリーダーシップであるといえるでしょう。
コンテキストによる組織構成
高コンテキストのマトリックス組織だと、個人責任で仕事をするため、お互いに壁を作ります。意図的に机と机の間に高いパーテーションを置いて、自分の仕事しかしません。反対に隣の人の仕事をすると不信に思われます。「この人私の仕事を取ろうとしている」と感じるわけです。やってはいけないことは、職務記述書に記載のないこと、目標による管理、優先順位を守らないことです。優先順位の低いことをやればクビになり、優先順位の高いことをやる人は出世をします。 もう一方で、低コンテキストのアメーバ組織のチームは故意的に重複して仕事をします。そうすることで誰がやるのか決めなくてもよいですし、その状況に合わせて誰が何をするか決められるので、柔軟に対応することができます。 この組織の特徴としては、優秀な人にどんどん仕事が来るので、仕事が増えた人が出世するというシステムです。やってはいけないことは、迷惑をかけたり、空気が読めないことです。周りの様子を見て適宜報連相をすることで良いチームプレーが生まれます。 日本でも、メンバーシップ型(アメーバ)からジョブ型(マトリックス)へ移行しつつありますよね。ただし、突然ジョブ型に移行しても、助け合いや情報共有の方法、稟議システムなど、メンバーシップ型の要素が残るんですね。私は日本でのジョブ型を「チームファースト型リーダーシップ」と呼んでいます。 メンバーシップ型とジョブ型の良いところを取っているため、外国人もやる気をもって働くことができます。
将来のグローバルエコノミー
様々な国や人が上手く組み合わされることで、それぞれの勤務スタイルから最高のハイブリッド的効果を引き出すことができます。
ステレオタイプに聞こえるかもしれませんが、日本の製品の品質は高いですよね。さらにチームワークは世界一で顧客を重視したサービスに優れています。 一方で欧米はローカリゼーションに長けています。また、リスク負担の回避意識が高い傾向にありますね。リスク対策に向けて早く動きますし、現地で明確に戦略を説明するスキルを持っているということです。 私は、両者の持っているスキルを巻き込んでグローバルチームを作ることで、互いの力を最高レベルまで引き出すことができると感じます。
ディスカッション
さて、グローバルチームを作成したらミーティングが大事になるわけですが、会議の様子をみてみると、日本は静かですね。丁寧に進めます。 役職順に発言権があり、議長は会議がスムーズに進むように進行していきます。これを儒教型の会議といいます。 一方で海外の会議は、短い意見がダブルステニスのボールのようにポンポン飛び交います。議長は話が脱線しないようにサポートをする程度です。これをソクラテス型の会議と呼びます。
ハイブリッドなマネジメントスタイル
私が今後必要だと考える働き方は、日本型のチームワークを基本とした働き方とグローバルビジネスの個人プレーを基本とした働き方、それぞれの強みを組み合わせた「ハイブリッド型」です。 上記のスライドにもあるように、外国人は個人プレーを基本としているため、職務記述書に書いていないことはやりません。そのため、そこにチームワークについて記載がないとやらないのです。ハイブリット型を上手く機能させるためには、チームワークとは何かを説明し、自分の仕事をフルパワーでやることにプラスして、周囲に手を貸し、報連相をすることで出世できることを事前に伝えるとよいです。
まとめ
外国人が日本企業に参加すると、「暗黙の了解」があることやマニュアルがないこと、出世するための道筋が明確になっていないことなど、戸惑うことが多いです。 そのため、日本企業のグローバルリーダーは、外国人の部下に対して特別なサポートをしなければなりません。高コンテキストで、明確なキャリアパスを示す、やったことに対して必ず褒める、こうした態度に改めるだけで、彼らのモチベーションアップが期待できます。 グローバルビジネスを展開していると、様々な背景を持つ人たちとの関係性にストレスを感じることがあります。しかしストレスにはポジティブなものあるのです。 今回は国ごとの特徴をご紹介しながらその活かし方をお伝えしましたが、日本人も外国人も、人それぞれ個性があります。目の前の相手を理解する姿勢がもっとも大切です。
Jon James Lynch 氏
株式会社J-Global CEO
英国ブリストル大学卒1990年に来日後、1991年に株式会社インテック・ジャパン社(現社名:株式会社 リンクグローバルソリューション)に入社。1994年からはマネージャーとして国際ビジネス・コミュニケーション・スキルの指導に当たる。 現場で培ったマーケティングやセールス戦略構築の経験と日本での豊富なビジネス経験を活かして、100社以上の日本企業及び外資系企業にて講師やコンサルティングを行なった実績をもつ。
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