ヒップスターゲート

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「未来を切り拓く次世代リーダーをどう創るか?」

2023.01.05

弊社ヒップスターゲートは、企業の成長と発展を担う「次世代リーダー像」を探るべく、有識者の方々をゲストに迎え、8月から12月にかけて全5回の無料オンラインセミナーを開催いたしました。本記事は、2022年12月6日に開催した第5回セミナーより、『未来を切り拓く次世代リーダーをどう創るか?』をまとめたものです。

セミナー名

「未来を切り拓く次世代リーダーをどう創るか?」

セミナーの目的

世界水準のリーダーに求められる素養を把握し、自社の人材育成に役立てる

セミナーの内容

本年のヒップスターゲートセミナーは、過去4回にわたって次世代リーダーの実体に迫ってまいりました。企業の成長と発展を担う彼・彼女らに必要な素養は部分的に明らかになったものの、体系立てて育成するための道しるべは未だに示されていません。 次世代リーダー像をめぐる航海の最終回にあたる今回のセミナーでは、総決算としてこれまでご登壇いただいた4名の識者をお招きしてパネルディスカッションを行います。リーダーシップの概念は時代とともに変遷をしてきましたが、VUCA時代の今こそ新しいリーダーが求められています。 今回はDE&I、グローバル、キャリア、1on1と様々な分野の有識者の皆さまによるお話しを通じて、新しいリーダーの在り方について考えます。

皆様、本日は弊社開催のセミナーにご参加いただき誠にありがとうございます。 本セミナーは『次世代リーダー見聞録!』ということで、有識者4名をお招きし、『未来を切り開く次世代リーダーをどう創るか?』をテーマにお話しをしていただきます。 私はナビゲーターを務めます、小田桐と申します。

まず、セミナーの本題に入る前に、リーダーシップの概念が時代とともにどのような変遷を辿ってきたのか振り返りたいと思います。

リーダーシップの変遷

紀元前から19世紀(特性理論)

実はリーダーシップの理論は紀元前から始まっていたと言われています。 この時代は国を率いる政治家や軍人など、いわゆる偉人と呼ばれる優秀な人たちには共通の特性があるのではないかと考えられており、その考えに基づいた「特性理論」が主流でした。

1940年代~1960年代(行動理論)

そして、第二次世界大戦後の1940年代~1960年代は急速な産業の活性化に伴い、企業も迅速なリーダー育成が求められました。そこで着目されたのが活躍するリーダーの行動に基づいた「行動理論」です。

1960年代~1970年代(状況適合理論)

その後、1960年代では「状況適応理論」が広がります。これは、リーダー行動がとれたとしても、うまく機能するケースとそうでないケースがあることに対して、リーダーの置かれている状況の違いが要因ではないかといった考え方に着目した理論です。

1970年代~(交換理論)

1970年代には、リーダーシップはリーダー個人のものではなく、リーダーとメンバーの間で交換されるものだと捉えられるようになりました。そのためリーダーとメンバーの関係性に着目した「交換理論」が登場したのです。

1980年代~(変革型リーダーシップ理論)

1980年代に入ると、従来の決められたことを決められたやり方で行うだけでは、企業の持続的な成長は見込めない時代となりました。そこで変革を成し遂げるリーダーが必要となり、「変革型リーダーシップ理論」が登場しました。

これから私たちが未来を切り拓くために、VUCAや人的資本経営などの時代背景の中で、どの様なリーダーシップが求められるのか、リーダーとしての特性とは何かを4名の有識者の皆様と共に解き明かしていきたいと思います。

小田桐
では早速ですが、リーダーに求められるもの(資質・能力・行動)は何だと考えられるでしょうか。3つ教えてください。最初は、有山さんからキーワードを教えていただきたいと思います。

有山徹の考えるリーダーに求められるもの

有山
はい。私はこの3つが次世代リーダーに求められていると考えています。

私が代表理事を務めているプロティアン・キャリア協会で重要視しているコンピテンシーは、「アイデンティティ(個性)」と「アダプタビリティ(順応性)」です。 自律的なキャリアを形成するには、自分らしくありながら変化に適応する力が必要だからです。そのため、リーダーにはこの2つの要素が必須だと考えます。 加えて、プロティアン・キャリアでは、キャリアは他者との関係性の中で作り出されるという考えに基づいていることから、リーダーに必要な素質として「関係性構築力」を挙げました。 それぞれの要素をもう少し分解して説明すると、1つ目の「パーパス/アイデンティティ」とは自己理解を指します。 リーダーは、組織のパーパスと自分自身のパーパスを結び付けて接点を作り、そこで自分自身のモチベーションをコントロールしていくのはもちろん、メンバーのパーパスと組織のパーパスを結び付け、それを言語化できる力が必要です。 2つ目の「関係性構築力」は、周囲を巻き込むということです。いまビジネス環境は多様な価値観を受け入れるD&Iの考えが広がっていますが、リーダーは多様な価値観を受け入れるだけでなく、様々な価値観をもったメンバーの可能性を広げていかなければなりません。そのために周囲を巻き込む関係性構築力が重要なのです。 3点目は「アダプタビリティ」です。VUCAと呼ばれる現代には、その変化に適応するマインドセットが求められます。これからの時代は予測が難しく、私たちが経験してきたことが未来では通用しないと言われています。そのため、リーダーは過去に執着するのではなく、未来起点で考えるための要素として、過去を意味付けして捉え、変化を受け入れていかなければなりません。その変化に対応するための学びや挑戦が今後必要となるため、その考え方をマインドセットしておき、適切に判断する能力を養う必要があると考えます。 以上が私の考えるリーダーに必要な要素3点です。
小田桐
ありがとうございます。続いてジョンさんお願いします。

Jon James Lynchの考えるリーダーに求められるもの

ジョン
私は、グローバルリーダーに必要な要素を3つお伝えしたいと思います。

1つ目は「ゴールを設定する能力」です。 日本には組織目標を立てる際や決定事項を下すとき、事前の根回しや稟議など、プロセスを踏んで意思決定をする文化があります。グローバルの観点でも、海外のニーズをリカバーするように多様なメンバーと事前にディスカッションすることは必要ですし、共通の目標をつくる時も、メンバーの意見を聞くことは大事です。 この時に重要なことは、企業戦略を各海外拠点のニーズに合うよう国別の戦略・目標を立てること、そしてその目標を立てた理由・利点をメンバー全員が理解できている状態をつくることです。 私が思うリーダーの役割は、メンバーがそうした状態になるように働きかけることです。そのためにお勧めしているのが、コーチングをベースに目標を立て、伝えるということです。 多様な人がいるので、それぞれの感じ方や価値観も様々です。 だからこそ、その目標を立てる理由をインタラクティブに深堀りしながら聞く必要があります。そしてリーダーは企業として何ができるのかをメンバーに伝えていかなければなりません。メンバーのパーパスを実現するために、個人のキャリア目標と企業の目標が一致するよう働きかけることがリーダーには必要なのです。 2つ目は「グローバルチームワーク」です。 様々なバックグランドを持つ人が集まって仕事をする際、リーダーが取り組むべきことは、みんながこのチームのメンバーでありたいという雰囲気づくり、すなわち心理的安全性の高い組織をつくることです。 そのためにインタラクティブなコミュニケーションは必要不可欠なのです。 リーダーはメンバーの動機づけを理解し、達成した際に得られるベネフィットを明確にするなどのモチベーションが上がるようなプランを計画し、自組織のメンバーであり続けたいと思えるように働きかけることが必要です。 近年外国人の離職率が高いという声が多く挙がっていますが、チームワークを発揮するためにも、メンバーがここに居続けたいと思う心理的安全性の高いチーム作りをするべきなのです。 3つ目は「ポジティブなコーチングスタイル」です。 先に理想をお伝えすると、リーダーが20%聞く、残りの80%はメンバーが話している状態のコミュニケーションを目指すべきです。そのために、リーダーはメンバーから話を引き出すコーチングスタイルで接する必要があります。 異なる文化、価値観、働き方を背景としたメンバーの、それぞれの思いは想像しづらいです。でも、だからこそ、コーチングを通じて、「そんな課題を持っていたんだ」とか「じゃあ、いつまでにどんなサポートが欲しい?」というように問いかけ続けることが大切です。 目標達成のベネフィットを明示することで、メンバーはやる気が出るし、達成のための明確なプランを立てることもできます。その結果、組織の生産性が高まるので、互いにとってwin-winな関係をつくることができるのです。 以上が、私が考えるリーダーに求められている3要素です。
小田桐
ありがとうございます。では篠田さんお願いします。

篠田真貴子の考えるリーダーに求められるもの

篠田
私が考えるリーダーに求められる要素は次の3つです。

1つ目は、有山さんからもキーワードとして挙がっていた「セルフアウェアネス」、つまり自己理解の力です。 これはなぜ大事かというと、ある意味人間のダメな部分も含めて自分を理解すれば分かってくることがあるんですね。自己理解が深まっていると、周囲や社会と良好に繋がっていくことができるのです。 2つ目は「クリティカルシンキング力」です。 私たちがこれからリーダーとして仕事をしていく先には、過去の経験とは全く違うことが起こります。すなわち、はじめての状況において過去の経験を無意識に使ってチームをリードしようとすると結構危ないことが予想されるのです。 そういったときに、リーダーには前提を疑う力、発想を変える力、または変えようとする姿勢を作るためのクリティカルシンキングが求められるのだと思います。 3つ目は「聴く力」です。 先ほどジョンさんから心理的安全性というキーワードが挙がりましたが、そもそもなぜ心理的安全性が大事かというと、組織のパフォーマンスが向上することが科学的に証明されているからです。 では、心理的安全性の高い組織がどういう状態かというと、行動レベルで見たときに、メンバー同士が聴き合っている状態といえます。 リーダーが「今日から心理的安全性の高い組織にしよう」と言っても、そうはならないし、何をしたらいいかわからないですよね。 けれど「今日からお互いに聴き合いましょう」と言うと、やるべきことが明確になっているから、それができるのです。 「聴く」ことに着目すると、立場上リーダーの影響力は強いですから、実は聴き合っている状態は作れていないのです。聴き合う状態を作るには、リーダーが自ら意識的にメンバーの話を聴く力を発揮することです。その結果、心理的安全性の高い組織が形成されるのです。
小田桐
ありがとうございます。では、本テーマの最後は星加さんにお願いします。

星加良司の考えるリーダーに求められるもの

星加
私の考えるリーダーに求められる要素は、次の3つといたします。

1つ目の「自己内省の視点」は、有山さんが話していた自己理解、篠田さんが提示しているセルフアウェアネスと共通しているのですが、これからインクルーシブな職場環境を作っていくためのリーダーシップのあり方を考えると、キーワードはやはり周囲との関係性にあると考えます。 これまでは、それぞれの立場の人たちが、個人としてどう成長していくか、についてのマネジメントや人材開発が前面に出ていたように思います。 しかし、これからのリーダーシップは関係性に着目すべきだと考えます。 自分のことは自分が一番よくわかっているという言葉がありますが、これは誤解だと思っていまして、むしろ自分のことってあまり理解できていないと思うのです。 とりわけリーダーという立ち位置は、マジョリティ性、マイノリティ性という言葉を使うと、関係性の中で強い立場にあり、マジョリティ側だと言えます。マジョリティの立ち位置にいると、ある種の認知バイアスが働きますので、自分自身を客観視できていないことが多いと言えます。 リーダーシップを発揮するには、自分自身が関係性の中でどういう立ち位置にいるのか、どういう構造の中に巻き込まれているのかを捉える視点を持つことが重要です。 2つ目は「問いへの好奇心」です。 私たちは仕事をしていると答えに飛びつきたくなる特性を帯びています。 しかし残念なことに、これだけ変化が激しい社会においては、答えは簡単には見つかりません。むしろ簡単に見つかる答えは真因ではないと思います。 分からない中で、何が分からないのか、分かるようにするためには何を突き止めればいいのかという問いを常に持っておくことが重要で、そのこと自体を楽しめる、またそこに関心を持てるマインドがリーダーには必要だと思います。 3つ目は「可能性を信じるマインド」です。 より正確にいうと、ポジティブな可能性を信じるマインドということです。 管理職という言葉がまだ広く使われていますが、人を管理するだとか、組織を管理するというと、まずはコストやリスクについて考え、そして明確な成果について考えるという流れが前面に出がちです。 そしてそれらを上手くマネジメントできるのが、良い管理職だという文化が強いと感じます。しかし、ここで考慮されていないのがポジティブな可能性です。 コストは必ずわかるマイナスな部分、リスクはネガティブな可能性です。日本の管理職文化では、リスクについては考えるのに、起こりうるポジティブな未来を創造する視点が非常に弱いと感じます。 以上をこれからのリーダーに求められる要素として挙げさせていただきました。
小田桐
皆さん、様々なキーワードをお出しいただきありがとうございます。 この後、これらの観点でお話を深堀りしていきますが、時間の関係もあるため、お二人からコメントをいただければと思います。 では、ジョンさんと篠田さんからお願いします。
ジョン
先ほどの星加さんが挙げていた「可能性を信じるマインド」はすごく大事だと感じました。マインドを変化させるのは難しいと思うのですが、過去を考えるマインドではなく、未来を考えるマインドはどのように形成すればよいのでしょうか。
星加
ありがとうございます。そこがまさに難しいところですよね。
リスクマネジメントに関しては、みんなよく考えるようになったのですが、プラスの可能性には意識が向きづらいですね。おそらく欧米に比べて日本は特にその文化が強いと感じます。 未来を考えるマインドに変化させるには、この問題をいかにして乗り越えるかが重要だと思っています。解決の糸口の1つとして考えられるのが、マイナスについて考えることをもっと深めることかなと思います。 マイナス要因を深堀りすることで、そこからポジティブな可能性を見出すことができるのではないかと思います。リスクは悪いことと捉えられがちですが、リスクは将来の可能性のことを指す言葉なので、悪い可能性があれば当然良い可能性もあるわけです。 きちんと考えれば両方が含まれているはずなので、適切にマイナスを減らしつつ、プラスの部分を増やしていく考え方を共有していけば、ポジティブな可能性に目がいくのではないでしょうか。 あとの解決の糸口は、日本の学校教育にあるかなと思います。 日本は減点主義国家のため、間違えないようにするための指導が行われていますが、そうではなく、プラスを生み出していく教育に変えていくことも1つのポイントだと思います。 ただ、これは組織が解決する問題ではなく、教育制度全般の問題なため、長い目で変えていく必要があると考えます。
ジョン
分かりやすい説明をありがとうございます。
小田桐
ジョンさん、星加さん、ありがとうございます。 では続いて、篠田さんいかがでしょうか。
篠田
はい、率直な意見として、キーワードの共通点が多いと感じました。 実は、我々まったく事前打ち合わせをしておらず、今日初めて皆さんの意見を聞いたのですが、近い考えがたくさんあることに驚いております。 私が1点目に挙げた「セルフアウェアネス」については、星加先生もかなり近い表現をされていたし、有山さんの「パーパス」とか「アイデンティティ」もそうですし、リーダーは自分が何者であるかを適切に捉える必要があることが再認識できました。 かつジョンさんも明示的には仰っていませんけれど、自己理解がなければ、他者との違いは認識されないので、多様性が高いチームをリードしていくには、「当然必要でしょ」というニュアンスで仰っていたように思えました。 我々4人は、専門分野が違いますけれど、それでも各々の場所でリーダーシップに対面したときに、「必要な要素はこれ」と共通解になっていることに面白さを感じましたし、実際の世の中の流れはやはりこちらに向かっているんだと感じることができました。
ジョン
私もそうです。自分自身を理解するには客観性が必要ですね。まさに篠田さんが仰っている通りです。
篠田
そうですよね! ジョンさんも、明らかに自己理解を前提にお話されているなと感じながら聞いていました。
小田桐
今回共通解として「自己理解」というキーワードが出ていますけど、リーダーを育成する際、彼らレベルの人材となると、もう自分のことは十分知っていると認識している人が多く、その重要性に気づけていないように思います。有山さんはどのように感じますか。
有山
そうですね。リーダーへの教育は、DXなどテクニカルに寄っている印象があります。けれど、テクニカルスキルを学ぶモチベーションを支える土台として、まずは自分がどういう風に生きたいのかが前提としてあるべきだと思います。 今はこの辺りの認識を変えていく変革の時代だと思っていまして、まさに組織型キャリアから自律型へ、自分がどうしたいのかといった考えに転換するきっかけになるのではないかと考えます。 リーダーである以上、アイデンティティやセルフアウェアネスを大前提にリーダーの教育を考えるべきではないでしょうか。
小田桐
ありがとうございます。もっとこのテーマについてお話をしたいのですが、お時間も迫っているので次のテーマに移らせてください。

リーダーになるために必要な経験とは?

小田桐
次のテーマは、リーダーになるために必要な経験とは何か、という問いです。経験学習理論に基づくと、成長のためには経験が重要ですが、リーダーにはどのような経験をさせるべきでしょうか。 星加さんお願いします。

市民としての見識を広め深める経験

星加
私は、「市民としての見識を広め深める経験」だと考えます。 おそらく皆さん組織や仕事のなかで得られる経験について言及されるのかなという想定のもと、私は組織と社会との関係、組織と外との関係の中で得られる経験についてお話ししたいと思います。 ここであえて「市民としての」という枕詞を使わせていただいたのには訳があります。 1つは、組織外の視点を持つ必要があるからです。 私たちは自分が所属している組織だけではなく、外部の社会環境の中でも生きています。 家庭人や地域住民など、その他様々なコミュニティに属して生きており、私たちは多元的なコミュニティを持つことで存在しているともいえます。 そのため、リーダーは役割を与えられている組織外の視点を相対的に持つことができるよう広い視野を持つ必要があるのです。 今の組織や社会は、従来よりも多元的なステークホルダーとの関係の中で社会と関わり、外部からの期待に応えていくことが求められる環境になってきています。 そうした意味でも、これからのリーダーは、自分の組織が社会に果たすべき役割を与えることができているのか、あるいは社会の中でどういう役割が今後期待されるのかについて、俯瞰的な認識をもつことが必要です。 こういった経験を持つためにあえて「市民としての」という枕詞をいれているのが1点目の理由です。 もう1つ「市民」という言葉に込めた意味は、市民は環境を変えることができ、そのための視点を持つことが必要だということを伝えたいからです。 実は私たちは環境の中で生きていると同時に、環境を変えられる存在でもあります。 例えば、自分が所属している組織の競争優位性を高めようとする時、市場環境の現状と、それに対する適応法を検討しようとする傾向にあります。 けれども市場環境が求めるものは何かという、市場の変化自体に自分たちがコミットしていく可能性も同時に開かれているのですね。 例えば、近年人的資本経営への注目が高まっており、組織はそこへのガバナンス行動が求められています。これは一見、環境を変えられているように見えますが、実はそうした制度やルールを作っているのは私たち人間であり、社会がつくっているのです。 これからの社会がどうなっていくべきか、あるいは社会の中で自組織がどういう役割を果たしていくべきかを構想する際に、社会はどうあるべきなのか、自分はなにができるのかといった観点で働きかけていくことができるのです。 環境を捉える視点を持つのも市民としての在り方の1つだと思っていまして、リーダーはこうした経験を自分の組織だけに完結して持つのではなく、社会との関係の中で開かれた視点を育める経験が必要だと思った次第です。
小田桐
ありがとうございます。組織の自分だけでなく、市民の自分として、組織を俯瞰的に見る目を持つことの重要性をお伝えくださいました。 続いて篠田さんお願いします。

マイノリティ経験

篠田
ありがとうございます。私はマイノリティ経験だと思います。 意図したところが、いまお話をいただいた星加先生と被るなと勝手に思っています。 何をもってマイノリティ経験かと言うと、いわゆるジェンダーとか国籍とか外形的なマイノリティだけではなく、自分が当たり前だと思っていることが通じない状況という意味のマイノリティです。 一般に、組織でリーダーに登用される方は、メンバーとして成功されている人ですよね。そのため、組織の価値判断や物差しに非常に合致している人であると言えます。 そうすると自分が正しいと思ってやってきたことが、おおむね組織の尺にあっているので、反論されにくい人が上の立場になるわけです。 だけれども、これだと私が先ほどお話しした「クリティカルシンキング」や「セルフアウェアネス」、「聴く力」が必要ないわけです。なぜなら彼らが無意識にやっていることが、大体組織にとって正しいと判断されるからです。それだと3つの力が全然育たないですよね。 反対に、自分が正しいと思うことに周囲からの反論がある場合は、自分と他者が違う前提に立っていることになります。 聞いてみないと相手のことは分からない、分からないけれど、自分の意思や意図、パーパスを説得の源にしていかないと、リーダーシップを発揮できない状態、これをリアルに経験することを想定してマイノリティ経験としています。以上です。
小田桐
ありがとうございます。

グローバルプロジェクトマネジメント(日本とグローバルの違いを理解し、ギャップを埋めつつチームをまとめていく経験)

小田桐
ジョンさんお願いします。
ジョン
私は、リーダーには「グローバルプロジェクトマネジメント」の経験が必要だと考えています。 様々な企業様のサポートをする中で、マネジメント職として海外に行くことになった駐在員の方が、これまで部下を管理したことがない場合が比較的頻繁に見られます。 いきなり部下を管理する状況になった上に、言語が違い、市場も違うとなるとかなり大変ですよね。 そのため、リーダーは可能な限り「グローバルプロジェクトマネジメント」を通して、様々な人と仕事をし、多くのことを経験しておくことが重要だと思います。 他にもグローバルを経験させる方法は色々あるのですが、社内で様々な国の方と一緒にプロジェクトを遂行させる方法がおすすめです。そのプロジェクトの中身は何でも構いません。ここで重要なのは、日本と海外とのプロジェクト遂行方法の違いを認識し、その違いを受け入れることです。 プロジェクトの進め方として、日本人はPDCAを回して成果を出すといったプロセスを重視する傾向にあります。個人の役割は曖昧で、その都度柔軟に変化し、プロジェクトの範囲を探りながらチームワークを発揮していきます。 一方で海外はプロセスより成果を大事にします。個人の役割をはっきり決めて、事前に個人目標を定めます。そして個人の役割は変化しにくい文化です。 ここで言いたいのは、どちらかが正しいということではなく、両者の好いとこ取りをして、ベストミックスを目指してハイブリッドに進めていくことが重要だということです。 ただ、互いのやり方にすぐに順応するのは難しいですから、事前にそのやり方を経験しておくことが必要なのです。
小田桐
ありがとうございます。互いを理解し、互いの良さを生かす経験がリーダーシップを高めるというお話しをいただきました。

厳しい環境での実践体験

小田桐
最後に有山さんお願いします。
有山
私は、「厳しい環境での実践体験」だと考えます。 これまでの皆さんのお話を聞いて共通しているのが、「今まで自分自身が経験していない環境を自ら作り、そこで成長していく」ことだと思いました。 まさに私が言いたいのはそのことで、ここには2つの思いがあります。 1つ目は、今まで経験したことのない環境でないと、「アイデンティティ」や「セルフアウェアネス」に気づけないということです。 人は、これまで遭遇したことのないことを通じて、自分はこういう人だったんだと気づくことができ、それが結果的にセルフアウェアネスに繋がっていきます。 2つ目は、変化の時代において、新しい物や答えとはこうなのではないか、という高い目標を掲げて挑戦していくことです。 自分にはないスキルだけれど、社会や組織に必要だからやろうという、異文化・未経験への挑戦が、リーダーとしてのスキルを磨くのだと思います。 「アイデンティティ」と「挑戦」という2つの意味合いをこめてこの言葉とさせていただきます。
小田桐
ありがとうございます。星加さんから全体にご意見ありますか?
星加
やはり共通する観点がたくさん含まれていると感じました。その中で、具体的な質問として篠田さんにお伺いできればと思います。 半ばこれは私自身のお悩み相談でもあるので大変恐縮ですが、マイノリティ経験をどこに作り出すべきでしょうか。私の考えとしては、組織の中でマジョリティだからこそ、マイノリティ経験を作り出すには外側に行ってもらうのがやりやすいと思うのです。 だけども、ここで問題なのが、外部で得た経験を組織に落とし込めるセンスがある人は良いですけど、そうではないタイプの人たちは自分のホームグラウンドに帰ってきて安心しちゃうわけですね。「やっぱりここ居心地がいいね」と言って、外部の経験はエピソードに留まってしまうこともあると思います。その意味でマイノリティ経験をどれだけ身近なところで作り出せるか、その方法論が難しいなと感じておりました。篠田さんアイデアありますでしょうか?
篠田
仰る通りで、同じ経験をしてもそこから何を学び取って組織に何を持ち帰るかは個人差が出る領域ですよね。 大企業だと、ある人物が、外部で得たものを元の持ち場に活かせないようなら、その人にそれ以上の職責は履かせられないという判断になるかと思います。 一方で、より現場に近いリーダーの場合、助けになるのは「セルフアウェアネス」と接続する状況や環境を意図的に作り出すことだと思います。 方法論としてはマイノリティ経験をして戻ってきた人と周りの方との1on1を繰り返すことだと思います。 1on1を通して、日々の業務をどのようにしてマイノリティ経験と結びつけるのか問いを投げかけることで、経験を学びに変換することができるのではないでしょうか。 星加)経験をどう日常に落とし込むか、解釈のための道筋を見つけてあげることがカギになるということですね、ありがとうございます。

リーダーを育成するには、どのような教育が効果的か

小田桐
では、最後に「リーダーを育成するには、どのような教育が効果的か」というテーマでお話しできればと思います。 では、星加さんからお願いできますでしょうか。
星加
やはり「問いをもつこと」、すなわち未知のものに対する感受性や好奇心を高めるような教育が必要だと思います。 私たちはリーダーや組織マネジメントについて考えるときに、個人の行動レベルに分解してその集積が組織になっていくという思考をしがちです。 もちろんそのアプローチは有効性があるけれども、そこで見落としがちなのが、個人の行動と周囲との関係性です。ある明言化されていない環境が個人の思考にどう影響を与えているのかといった視点を持つことが大事で、それを助成する教育の在り方が必要だと思います。 私は普段東京大学の教授として、東大生に対してそういうことを伝えるよう意識的に働きかけています。彼らを見て感じることが、国のリーダーを多く輩出している東京大学の学生であっても、自らが社会・組織を変えられるという、ある種の自己効力感が低いということです。 リーダーを育成するためには、実際の社会・組織を変えるための手法や、そのための道筋を伝える教育への転換が必要だと感じています。
小田桐
次に篠田さんお願いします。
篠田
リーダーを育成するには、様々な教育がありますが、やはり話を聴かれる経験、聴く経験を作り出すことだと思います。 話し手がじっくり話ができて、じっくり聞いてもらえることができる機会がふんだんにあることで、人は聴けるようになります。話を聴いてもらう機会がなければ、聴けるようにはなりません。 組織や職位によって、既存の教育カリキュラムがあると思うのですが、そこにじっくり聴いてもらう機会を取り入れることで「セルフアウェアネス」、つまり内省することができるし、その経験によって人の話が聴けるリーダーに成長する、こういうメカニズムの着火点になるのではないかと思います。
小田桐
ジョンさんおねがいします。
ジョン
グローバルリーダーになるためには、コーチングができるようになることです。 日本ではプレイングマネージャーであることは問題ありません。報連相が根付いている文化だし、柔軟なチームで働いているから何とかなります。 しかし、海外でそれをやろうとすると、報連相がマイクロマネジメントになる可能性があります。また、外国人のメンバーにとっては、マネージャーが自分がするべき仕事を行うわけですから、彼ら、彼女らのスキルアップの機会を奪うことにもなります。ならば、プレイングマネージャーをやめてコーチングスタイルマネージャーになった方が良いといえます。そうすると戦略的なマネジメントができるし、育成にも力を注ぐことができるからです。
小田桐
最後に有山さんお願いします。
ジョン
私が挙げさせていただくキーワードは、「リーダーの自己効力感を育むこと」です。そのためには、本日出た重要なキーワードである「アイデンティティ」「セルフアウェアネス」が重要になると思います。私が日々感じることは、キャリアの考え方が組織型から自律型へ転換するにあたって、その考え方が更新されていないことが多いということです。 やはり、リーダーは自己効力感を高めるためのキャリア自律の考え方を学ぶことが重要だと思います。
小田桐
ありがとうございます。もうあっという間にお時間となりました。 もっとお話しを伺いたいところではありますが、本日のセミナーはこれにて終了とさせていただきます。パネリストの皆様、本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。

星加 良司 氏

東京大学大学院 教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センター 教授

11975年、愛媛県生まれ。5歳のときに小児がんで視力を失ったが、小・中・高校とも普通学校で学ぶ。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。 東京大学先端科学技術研究センターリサーチフェロー、同特任助教を経て現職。主な研究分野はディスアビリティの社会理論、多様性理解教育。 著書に『障害とは何か』(生活書院、2007年)、『合理的配慮』(有斐閣、2016年【共著】)他。一般社団法人組織変革のためのダイバーシティOTD 普及協会理事/運営委員

篠田 真貴子 氏

エール株式会社取締役

社外人材によるオンライン1on1を通じて、組織改革を進める企業を支援している。 2020年3月のエール参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年〜2018年ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)取締役CFO。 退任後「ジョブレス」期間を約1年設けた。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。 (株)メルカリ社外取締役。経済産業省 人的資本経営の実現に向けた検討会 委員。 人と組織の関係や女性活躍に関心を寄せ続けている。 「LISTEN――知性豊かで 創造力がある人になれる」 「ALLIANCE アライアンス――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」監訳。 「デュアルキャリア・カップル――仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える」日本語版序文

Jon James Lynch 氏

株式会社J-Global CEO

英国ブリストル大学卒
1990年に来日後、1991年に株式会社インテック・ジャパン社(現社名:株式会社 リンクグローバルソリューション)に入社。1994年からはマネージャーとして国際ビジネス・コミュニケーション・スキルの指導に当たる。
2010年 株式会社J-Global 設立。
現場で培ったマーケティングやセールス戦略構築の経験と日本での豊富なビジネス経験を活かして、100社以上の日本企業及び外資系企業にて講師やコンサルティングを行なった実績をもつ。

有山 徹 氏

一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事
4designs株式会社 代表取締役CEO

2000年に早稲田大学卒業、早稲田MBA/中小企業診断士/キャリアコンサルタント/ISO30414リードコンサルタント 大学卒業後、メーカーを経て自動車、IT企業等の事業会社の経営企画を13年、経営コンサルティング会社3年ほど経て2019年7月に経営コンサルティング、組織開発支援事業を行う4designs株式会社を設立。 2020年3月共同代表の法政大学キャリアデザイン学部田中研之輔教授と一般社団法人プロティアン・キャリア協会を設立。 大手企業に人的資本最大化に向けたプロティアンを軸とした組織開発支援に取り組んでいる。

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