人生100年時代におけるキャリアの考え方
2019.11.15
ツイート人生100年時代の新しいキャリアデザイン―自分らしく生きるために
「人生100年時代」は、もともとロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授が著書『ライフシフト 100年時代の人生戦略』の中で提唱した言葉でした。
グラットン教授は本書で、100年時代を迎えるにあたって、80歳程度の平均寿命を前提とした「教育→仕事→引退」という3つのステージからなる人生設計から、3つのステージを繰り返すマルチステージの人生戦略にシフトする必要があることを示唆しています。
さらに、グラットン教授の指摘によれば、100年という長い人生を支えるために、現役時代からの貯蓄などにも増して重要になるのは以下の3つだということです。
①教育
専門技能を高め、世界の競合から自分を差別化するための教育。かつてのように引退して余生を送るのではなく、生涯にわたって自分を高めるために、積極的に学びを継続する必要がある
②多様な働き方
70歳(将来的な退職年齢)を超えても働き続けられるように、雇用されるだけでなく、フリーランスなどの独立した働き方を視野に入れる
③無形資産
貯蓄や財産といった有形資産だけでなく、地域とのつながりや同じ趣味を持つ仲間などとの人的ネットワーク
人生100年時代だからこそ、マルチステージの流れに適した継続的な教育と、仕事との関わり方をそれぞれが模索する必要があるのです。
なぜ、ライフキャリアという考え方が必要なのか
本項では、従来の「キャリア」とは違う「ライフキャリア」という概念や、100年時代のキャリアデザインに焦点を当てて解説します。
人生80年時代の「キャリア」と人生100年時代の「ライフキャリア」の違い
厚生労働省の定義によれば、「キャリア」とは長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖のことであり、「職務経歴」などとも呼ばれます。人生80年時代の「キャリア」とは、いわばビジネス上の積み重ねを指していました。
対する人生100年時代に紐付けられる「ライフキャリア」とは、ビジネス上のキャリアだけでなく、家庭生活や地域活動、自己啓発や趣味などの幅広い関わりから得られるあらゆる経験の積み重ねを意味しています。
人生100年時代を自分らしく豊かな人生としてデザインするには、自分に合った形態で80歳になっても現役で働きながら、ライフキャリアを充実させる攻めの姿勢が欠かせません。
ライフキャリアデザイン支援の形
近年では、従業員のキャリア形成支援にとどまらず、従業員の生涯にわたるライフキャリアデザインを積極的に支援する企業が増えてきました。
リカレント教育(社会人の教育機関での学び直し)のバックアップや、資格取得のための受験料あるいは専門的知識やスキル習得のための受講料の一部負担、兼業あるいは副業の容認、ボランティア休暇の整備などがその代表例として挙げられます。
企業によるライフキャリア支援の背景
企業が従業員のライフキャリアデザインを支援する背景には、人生100年時代の到来にともなうさまざまな変化が関係しています。
就労期間が50年から80年と長期化することにより、1つの会社で引退まで働き続けることが考えにくくなったこと、社会の構造変化によって、数十年前と同じように会社の経営や成長が堅調であるとは限らないことなどから、転職は誰にとっても身近になってきました。
新卒者の一括採用と並んで通年採用も検討されるようになったこと、転職による中途採用者が増えたため、終身雇用制度が絶対ではなくなったことなども少なからず影響しています。
ライフキャリアデザイン支援の効果
40歳代から50歳代の従業員の中には、社内での昇進機会の減少や業務のルーチン化などの理由から、仕事に対するモチベーションを維持しにくい人も少なくありません。このような中高年従業員のライフキャリア形成をサポートする、あるいは従業員のキャリアアップに向けた学び直しや資格取得などを支援することで、従業員は生涯現役を強く意識したり、学習意欲の向上につながったりすることもあります。
ひいては従業員の業務に対するモチベーションアップも期待できるため、従業員に対するライフキャリアデザインの支援は間接的に企業の生産性向上につながると考えられます。
人生100年時代の極意―生涯にわたる自分らしいキャリア形成と豊かな社会性
100年という長い人生を豊かに過ごすためには、80歳現役の意識を持ちながら意欲的に仕事をしつつ、家族や地域、仲間とのつながりを大切にした生活を積み上げていくことが求められます。
中でも、50年、人によっては80年にも及ぶ仕事人生の充実は大きな比重を占めています。受け身ではなく積極的に自分のキャリアをデザインし、専門性を高めるなど、継続的に自分の価値向上に努めたいものです。