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ダイバーシティのプロが呟くアレコレ

男性育休義務化の新設で職場は大混乱!? 他人事じゃすまされない、今から出来る準備と対策<その②>

2024.01.15

育休取得の申請が「1か月前」から「2週間前」に変更される理由

これまで「一か月前」申請だった育休の取得が、改正後の「出生時育休(いわゆる男性の産休)」制度では、「2週間前」申請でよくなるということは、前回のコラムで触れました。

まず、なぜ「1か月前」から「2週間前」に変更されるのか、です。

出生時育休は、男性の取得を目的とした産後8週間内に限定された育休です。

厚生労働省の資料によれば、育休取得した男性たちで最もニーズが高いのが産後期間であり、この期間の取得を柔軟で取得しやすい枠組みとすることが必要だから、というのが主な理由で記載されています。

ただ、これまで国と歩調を合わせて男性育休推進を行ってきた私からは、以下の2つの理由を挙げておきます。

第一に、産後は母体保護の観点から母親へのサポートがとても重要な期間であり、また産後うつのリスクも伴います。そのため里帰り出産など、日本の子育て、特に出産、出産直後の育児は母親の実家のサポートに頼ってきました。しかし、そうした慣習を見直し、少なくともパートナーである男性(父親)たちは妻(母親)と子どものために休もう、というわけです。

第二に、「産む“性”ではない男性が父親としての自覚を養う特別な期間が産後期間であり、父親にこそ産後休暇を推進する」という考え方が、特に欧州で定着しています。

私は父親目線の後者の考え方が個人的には好きです。男性の役割は、働いて稼いで家族の大黒柱であれ、というだけではありません。生まれたばかりの子どもと一緒に過ごしたい、生んでくれた妻をねぎらいたい、という父親として夫としての側面も尊重されるべきだと思うからです。

しかし、出産予定日が分かっているとはいえ、実際に子どもが生まれてくるのはいつなのか誰も予測ができません。生まれてから取得申請して1か月後から育休が取れても、大切な産後8週間のうちの4週間が実質取得できない場合もあるでしょう。

一方、女性は、育休の前に産前産後休暇がありますので、子どもが生まれてから育休取得申請をしても、育休は産後休暇後から取得すればよいので、1か月前申請でも問題がないのです。出生時育休は、女性のように「産後休暇」が認められていない男性に限った育休制度ですので、申請期間は出来るだけ短く、手続きも簡潔に柔軟にすることがとても大切なのです。

男性育休義務化の新設で職場は大混乱!?

しかし企業側から考えると、申請期間が1か月前から2週間前に短縮されるのは大変なことです。なぜなら日本の職場には、ある特徴があるからです。

順を追って考えてみましょう。

妊娠によって身体が変化する女性と違い、男性社員に子どもが生まれたことを会社が知るのは、扶養届や健康保険手続き書類が人事部に提出されるタイミングのことが多かったはずです。

このようにして男性社員に子どもが生まれたことを知った会社は、改正法に基づき、個別周知義務を果たすために、男性社員に「育休が取れますよ」と伝えることになります。

おそらく多くの男性社員は人事制度に詳しくないでしょうから、初めて「出生時育休」の存在を知ることになるでしょう。

「へぇ、男性でも育休取れるのか。会社から取得を勧めてくれるんだ」と思いつつ、8週間内に取る制度だと知った本人は、「じゃ、取りたいです」と無邪気に言うでしょう。

もともと取得を考えていない人でも、申請して2週間後には最大4週間の育休が取れるわけですからね。育休給付金も支給されて給与手取りの実質8割はカバーされるし、ちょうど妻が退院して心身ともに不安定で大変な時期に側にいられたら安心だし、父親というものを堪能したい!と考える人はいるでしょう。

制度自体を知らなかったとしても、会社が勧める制度であり、従来に比べ育休は取りやすくなるわけです。

しかし、猶予期間たったの2週間で約1か月の育休を取得する社員の業務を調整できる職場は多くないでしょう。

なぜなら、日本の会社では、欧米のように仕事に人を付けるのではなく、人に仕事を付けているからです。つまり属人的、その人にしかできない仕事が多いんですね。

この傾向は、総合職で業務が多岐にわたっている男性社員に顕著だと筆者は考えます。

女性活躍推進法に基づき、男女ともに同じように仕事の機会が与えられて同じように昇進昇格している企業なら、育休を取得する社員が男性であっても女性であっても、職場の困り方は変わらないはずです。しかし、一部の先進企業を除き、残念ながらそうとは言えません。

いまだに男女の人員配置には差があり、女性の多くは、簡易で安価の仕事を割り振られていることが労働関連データを見ても明らかです。

そうなると、女性社員が休む場合と、男性社員が休む場合では、職場におけるインパクトが違ってきます。

準備期間が十分にあれば、対応の選択肢も増えますが、2週間程度の準備期間では、多くの企業が大混乱に陥るのではないか、ということです。

では、何をどう対応すればよいのでしょうか。「男性育休義務化の新設で職場は大混乱!? 他人事じゃすまされない、今から出来る準備と対策<その③>」で具体的にお話ししましょう。

<執筆>
東レ経営研究所 ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部
チーフコンサルタント、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事:塚越 学

 

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