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「形だけの男性育休推進、もうやめませんか?〜人的資本経営の開示義務をチャンスに変える~」人的資本経営時代に求められるリーダー像とは

2023.09.13

人的資本の情報開示が義務化され、課題を認識して対策を打つ企業が増えています。形式的な人的資本開示ではなく、人的資本経営の本質を理解し、中長期にわたって企業価値の向上を図るために、男性育休推進は本来どうあるべきなのか。その推進のキーとなる経営者・管理職は人的資本経営時代にどう変化するべきなのか。この分野の第一人者である塚越氏に基調講演をしていただきました。

セミナー名

「形だけの男性育休推進、もうやめませんか?〜人的資本経営の開示義務をチャンスに変える~」人的資本経営時代に求められるリーダー像とは

厚生労働省が発表した調査データ

7月31日、厚生労働省は、令和4年度の男性育休取得率が17.13%(前回と比較して3.16ポイント増加)で過去最高だったと発表しました。改正法は令和4年4月のスタートですので、改正法前の最後のデータとなりますが、この数字にはすでに改正法の影響は出ていると思います。

というのも、2021年6月に国会で可決される半年以上前から、情報開示が義務化されること、産後パパ育休が盛り込まれることが報道されていました。そのため改正前から対応していた企業がたくさんあるからです。ただ、この数字には、法律が確定してから動き始めた企業の数値は入っていないだろうということです。

一方で、同厚生労働省のイクメンプロジェクト からは「男性育休取得率の公表状況調査」の速報が出ました。この調査は、男性育休取得率を公表しなければならない1,000人超の大企業にアンケートを取ったもので、改正法の効果が反映されているといいます。1,385社の回答企業・団体の男性育休取得率は46.2%、取得期間は46.5日が平均でした。

この調査結果のポイントは、取得率が向上した企業の「育休等取得率向上に資する取組内容」という調査項目です。項目には社内研修や組織体制の整備、事例の収集、提供があり、これらは法律通りの実施ということです。残り1つの項目は「個別の周知・意向確認」です。育休取得率が高かった企業は、この周知を人事部ではなく直属上司がやっていたということです。

人的資本経営の背景

アメリカと日本では企業価値の考え方が違います。アメリカの市場は、企業価値評価の大半を無形資産(人的資本も含まれる)で占めていますが、日本は有形資産にこだわっているといえます。さらに、GDP比率の観点でも、人的資本への投資という意味では、日本はまったくやっていないということがわかってきました。

この結果を受け、「日本は人を大事にする経営をしてきたんじゃないの?」と思われる人がいるかもしれません。日本がやってきた「人を大事にする経営」というのは、「雇用は維持する」ということだけでした。景気が悪くなってくると研修費を削減したり、残業をさせないなど、「人は材料であり、材料に対する投資は削ってよい」という発想だったのです。

それに対して「人は常に成長する、景気が悪くても人に対する投資は継続する」というのが、人材を「資源」ではなく「資本」と捉える人的資本の考え方です。

加えて、日本は研修の効果を測定してきませんでした。人的資本経営では企業戦略と合った形で人材育成が実施できているのか、KGI、KPIを設けてやっていくことが問われるし、今後はこれを開示していきましょうということです。

人材育成担当者様や研修講師からのヒアリングによると、23年度の新入社員の傾向は「良くも悪くも目立つ行動を取る人がいない」「真面目で素直」「相手の意見を否定しない」の3つに分類できます。

この傾向は対面の研修とオンライン研修で共通して見られた印象です。特に、様子を伺ったり、遠慮し合ったり、空気を読むような言動が多くありました。しかし一方で、受け身の姿勢でもなく、学ぶ意欲がないわけでもありません。真面目で素直で、学習することには積極的な意欲を見せる一面も持ち合わせていました。

また、コロナ禍によりリアルなコミュニケーションが取りにくい状況が続いた影響もあってか、少人数でグループディスカッションをさせても議論に発展性がありません。自分の考えとは違っていても、意見を飲み込んでしまう様子があったように感じています。

もしかすると背景にあるのは、育ってきた環境もあるのかもしれません。SNSでのコミュニケーションが当たり前で、対面コミュニケーションを取る必要性がそこまでないまま成長してきたとも言えます。

人的資本開示のポイント

最初から完璧を目指さないことが重要です。 まずは可視化をする、その後に社内外との対話をしながら毎年ブラッシュアップして企業価値を上げていくべきです。社外との対話とは、つまり投資家との会話です。

問題は社内との会話です。皆さんの会社では、人的資本開示について、IRや経営企画、人事部などの担当部署だけが取り組み、従業員は全く知らないということが起きていませんか。

このようなことが起こらないように、社内の対話が具現化するヒアリングやトップとの懇談会を設けたり、ワークショップを開催して従業員の意見を吸い上げようとする企業もあります。

従業員調査とかエンゲージメント調査を行う企業もありますが、量的な調査となるため、質的な部分が分かるヒアリングやワークショップでの声など、リアリティのある対話を深めましょう。

有価証券報告書への記載(2023年3月期より)

今回、有価証券報告書の「従業員の状況」について、「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」を連結ベースで開示することになりました。そして「サステナビリティに関する考え方及び取組」の中に人的資本について記載することなりました。

この「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」は並列で並んでいますが意味合いがまったく違います。その中でも、「男性の育児休業取得率」は最も即効性のある施策です。極端な話、経営トップが「やるよ!」と宣言して、育休を取得しようとなったら翌年から男性の育児休業取得率は100%になることもあります。なぜなら毎年生まれる人が違うからです。新しくパパになる人たちに周知ができればそのまま数値は上がります。

しかし「女性管理職比率」はそうはいかないです。大抵の場合、候補者が決まっているため、候補者をいかにして1人ずつ引き上げていくかということになります。丁寧なプロセスで、どこが根詰まりしているのかを分析して、課題に合わせた取り組みをしないと数字は上がらないです。
そしてその結果が「男女間賃金格差」に紐づくのです。

そのため、「男性の育児休業取得率」だけに力を入れるのではなく、やはり「男女間賃金格差」の数字まで成果を出せて初めて、一連の従業員に対する人的資本開示としてうまく機能し始めたということがいえるのです。

「小手先対応」と「真正面対応」で変わる企業将来像

「真正面対応」は、法律で言われていることを全てやることです。当事者向け、上司向け、そして職場作りをすることで、人的資本の数字にポジティブな影響が出るだろうことが容易に想像できます。

「小手先対応」は、1日、2日の育休取得率が上がったあと、他に良い影響が出ないまま単独で終わってしまうことです。

制度・周知上の工夫

男性育休の100%取得を推進する企業と、取りたい人が取れる推進の仕方をする企業があるとします。これはどちらも正しいと思いますし、どちらもやり方としてあってよいと思います。ただし留意点もあります。

  • 100%取得(&目標取得期間)推進

100%取得、または1ヶ月推進(最近だと3ヶ月という自治体も出てきましたが)は、新しい風土づくりや企業としての強い推進姿勢を見せることができます。

また、ジェンダーギャップの解消にもつながります。女性の取得率が100%なのに対して男性が10%なのはどうかということですが、育休を取得したくない人も取らなければならないので、企業が経済的に負担しなければなりません。

加えて、費用対効果も問題です。お金を使うことなのでこれを投資家に説明できるでしょうか。取りたくない人が取る育休は、自ずと休暇の質が低下しますから、遊んで終わりの育休にならないように、企業版両親学級などを通じて当事者へのフォローをすることが大事になります。
こうして100%取得できるようになると、取得期間や取得方法が多様化する企業も出くるでしょう。

  • 取りたい人が取れる推進

自由な選択肢ができることで、多様化の過程に沿っていると言えます。しかし、取りたい人が声を挙げられる職場作りや、男だからという思い込みで取得しなくていいと周囲が思わないことが必要です。思い込みの部分を排除、または減らしていき、心理的安全性の確保をしながらスタートしないとうまくいきません。

人的資本経営と人的資本開示

    まず「人的資本開示」と「人的資本経営」の違いですが、「木」に例えれば幹と根が「人的資本経営」で、枝や葉が「人的資本開示」です。持続的な成長を図りたいのであれば、大企業だろうと中小企業だろうと、人的資本経営の実践が必要だということです。上場会社はこれに「人的資本開示」が今回加わったということです。「人的資本経営」も、価値向上の観点とリスクマネジメントの観点の両輪だということを国は掲げているのです。

    人材多様化時代にチームを回せる職場作りとは

    私の研修で、上司に対して「ダイバーシティ・マネジメント」「ワークライフ・マネジメント」「ファミリーフレンドリー」の3つの違いを説明できますかと投げかけます。イクボスとは、「ワークライフ・マネジメント」を中心とした、「ダイバーシティ・マネジメント」ができる上司のことで、「ファミリーフレンドリー」の上司ではありません。つまり、イクメンとか、イクメンをサポートする上司といった狭い意味ではないということです。

    イクボス企業同盟「人的資本アンケート(20235月)」

    現在、ファザーリング・ジャパンで運営しているイクボス企業同盟には260社が参画されています。そこで人的資本についてアンケートを取り、44社が回答してくれました。

    人的資本開示19項目で、イクボス推進で効果の発揮が期待できる項目としては、「ダイバーシティ」が1番 でした。そして「育休」はもちろん「育成」「リーダーシップ」「エンゲージメント」も期待値が高かったです。さらに企業同盟の企業は、「コンプライアンス」「精神的健康」なども、人的資本経営に効果を発揮するのではないかと言っています。

    さらに、人的資本開示の19項目で重要視するものは何かと聞いたところ、重要視する項目とイクボスを推進することで効果が出そうな項目がほぼ一致していました。
    つまり、人的資本開示に力を入れて社内外にPRしたいと考えるとき、「イクボスを推進していくことが良さそうだ」ということが、この調査から見て取れるのです。

    イクボス推進策

    イクボス宣言はすぐにできる取り組みです。しかし、宣言したからと言って、言いっぱなしになることは良くありません。フォローアップできているかが大事です。

    イクボスの研修には、階層別研修、イクボス研修・セミナーなどがあります。そしてテーマ別のワークショップというのもあります。研修でインプットするだけでなく、その後現場で取り組んだことをシェアする場を設けましょう。

    ただし、職場作りは全員を巻き込まなければ完成しないため、上司だけにインプットするのではなく、部下たちにも同様の教育や啓蒙が必要です。

    イクボス推進策の効果測定・評価

    人的資本は、施策の効果を数字として測定していかなければなりません。測定のポイントは、人事評価制度に組み込まれている評価と、そうでない評価(インフォーマルな評価)の2つのバランスを取ることです。

    インフォーマルな評価とは、例えばイクボスアワードの様なもので、人事評価には含まないが貢献した人を称えるやり方です。

    事例の展開については以下3つの視点が必要です。

    • 育休を取得した当事者の視点
      当事者ばかりにスポットを当ててしまうと、「彼が休暇が取れるように工夫したのは私たちなのに」といった空気感になってしまいます。
    • 取得者の直属上司
      そこで、上司にスポットライトを当てることも大事です。
    • 職場やチームメンバーの視点
      さらに全体にスポットを当てることも大事です。
      職場全体、チームごとの姿勢を事例として見せることがとても大事です。

    セミナー講演のポイント

    講演のポイントは、企業が持続的に成長を図るためには、人を中心に置いて経営するべきだということです。言うのは簡単ですが、仕組み作りがやはり大事で、人的資本の情報開示が始まった今はスタート地点ですが、今後ブラッシュアップしていけるどうかは、今年の仕組み作りにかかっています。

     

     

    塚越 学(つかごし・まなぶ)

    東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部チーフコンサルタント。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事。イクボスプロジェクト・コアメンバー。男女共同参画・働き方改革・管理職改革に関する講演・ワークショップ・コンサルティングで数多くの実績。「育児&介護を乗り切るダイバーシティ・マネジメント イクボスの教科書」「男性育休義務化の基礎知識 男性育休の教科書」(いずれも日経BP)監修などメディア掲載・出演多数。

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