海外主要国のハラスメントを取り巻く事情
2019.09.27
ツイート日本でも職場のハラスメント対策が法制化
2019年6月5日、日本では労働施策推進法改正によるパワーハラスメント対策の法制化と、男女雇用機会均等法改正によるセクシャルハラスメント対策の強化が公布されました。
いずれにおいても、事業主がハラスメント防止のためにしかるべき措置をとることが求められています。
ILOではハラスメント全面禁止条約を採択
2019年6月22日には、ILO(国際労働機関)はスイスでの総会で“職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する”初の国際条約を採択しました。
条約の制定に向けた話し合いの過程では、スウェーデンやイギリス、フランス、ベルギーなど、すでにハラスメント規制が法制化されているヨーロッパ諸国が支持に回った一方で、アメリカやロシア、そして日本の経団連を含む経営者団体は慎重な姿勢を示していました。
こうした違いが生まれたのは、各国におけるハラスメントを取り巻く事情に違いがあるからです。
この機会に、今一度、海外主要国のハラスメント事情をおさらいしておきましょう。
フランス / セクハラ対策の先進国、モラルハラスメントの法制化も
フランスは、世界の中でもハラスメント、とりわけ「セクシャルハラスメント」に対する対策がいち早く進んだ国のひとつです。
刑法の中で「セクハラ罪」が定義され、罰則規定が設けられたのは1992年7月22日にさかのぼります。
これまでに何度かの法改正を経て、2012年8月6日には「セクハラ法」が制定され、セクハラ定義の一層の明確化に加えて、刑罰も「最長3年の拘禁刑」「最高4万5千ユーロの罰金」に重くなりました。
2001年になると、職場におけるモラルハラスメント防止策を盛り込んだ「社会近代化法」が成立し、モラルハラスメントによる補償も定められました。さらに、「刑法」の中でハラスメントが定義され、「懲役2年と罰金4万5千ユーロ」の刑罰も定められています。
こうしたハラスメントに敏感な国では、日本ではあまり問題視されていないこと、例えば部下の女性を夜に飲みに誘う、女性にお酒をついでもらったり、ついだりすることも、セクハラと受け取られてしまいます。
スウェーデン / 世界初の職場いじめの法制化国
スウェーデンでは、1993年に雇用環境法体系の中で、「職場における虐待に対する措置に関する政令」として、世界で初めて職場いじめの予防を法制化しました。
職場いじめは、被用者に対して行われる直接的で繰り返し行われる非難されるべき、明らかな敵対的行為と定義されます。いじめ予防の責務は使用者にあるとも定められており、現在は労使間においてハラスメント行為が禁止されています。
※職場いじめは、日本のパワハラに相当します。
韓国 / 職場ハラスメント禁止法の施行、禁錮刑や罰金も
2019年7月16日、改正労働基準法が施行され、職場でのいじめ行為の禁止が法制化されました。今後は、ハラスメント対策が不十分な雇用主には、最長3年の禁錮刑や最高3千万ウォンの罰金が科せられる可能性があり、ハラスメントによって労働者に健康被害が生じた場合の賠償請求権も保証されています。
韓国でも「カプチル」と呼ばれる職場でのハラスメント被害は深刻な社会問題であり、労働者の7割がいじめ被害に遭っているとの報告もあります。
今回の法制化で、韓国で初めて雇用主にハラスメント対応を義務付けるとともに、被害を申し出た労働者を法律で守る仕組みができました。「カプチル」一掃に向けての第一歩となった社会的意義は計り知れません。
アメリカ / 法律上のハラスメント禁止規定はなし、公民権法で適用
アメリカにもセクシャルハラスメントやパワーハラスメント被害は発生しています。しかし、アメリカではハラスメント禁止対策法のように法制化されてはいません。
その理由は、公民権法703条、つまり、性別を理由として雇用を拒否または解雇する、もしくは報酬や条件などを差別待遇することを禁止する規定に、セクシャルハラスメントの禁止が含まれると解釈されているからです。
なお、判例では職場でセクシャルハラスメントが発生した場合やしかるべき措置を講じなかった場合に、使用者の責任を認めています。
アメリカでは、パワーハラスメントに相当する行為は「mobbing」「bulling」などと呼ばれ、職場での集団いじめとして認識されており、現状ではセクシャルハラスメントや人種差別の4倍も見られる深刻な問題になっています。
世界のトレンド 国を挙げて職場でのハラスメント問題を解決する
さまざまなハラスメント防止対策のムーブメントは、30年ほど前にヨーロッパ諸国から始まりました。近年になって日本や韓国などにも波及し、ILOのハラスメント禁止条約採択をきっかけに、今後は世界中を巻き込んでいくことが期待されます。