脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどのまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線
2022.03.18
ツイート脳とAIが融合する日がやってくる!?
1980年代からAI研究家の間ではシンギュラリティ(技術的特異点)という言葉が使用されるようになりました。これは人間と人工知能の臨界点を指す言葉であり、AIが人間の脳と同等もしくはそれ以上の性能を有することを意味します。AIが人間の脳と等しい働きをするのであれば、人間の行動や思考を適切にサポートするために活用されると考えられます。
近年、人工知能が○○大学の筆記試験をパスしたなど、人工知能関連のニュースは枚挙にいとまがありません。それほど、人工知能に関する研究が進んでいるということです。ではもし、そんな人工知能と脳をダイレクトにつないでしまったら、一体どれほどのことができるようになるのか。何が起こるのか。そんな疑問に答えてくれるのが、今回紹介する書籍です。
タイトル:脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線
著者:紺野 大地、
出版社:講談社 (2021年12月発売)
人工知能が思念を読み取る
カリフォルニア大学では「人工知能が脳活動を読み取ることで、その人が考えていることを直接文章に翻訳できるようになった」という研究があります。まるでSFのようですが、電極を脳に埋め込み、脳波を人工知能に学習させることで「こうした話の時は、脳はこんな活動をする」と関係性を学習していき、最終的には脳活動から文章を予測できるようになる、というのが仕組みのようです。
マンガやアニメでは思念を飛ばしてコミュニケーションを取ったり、手で触れるだけで心の中を読み取るような、いわゆる超能力や超常現象の類がよく出てきますが、それが現実世界でも可能になりつつあるというのは驚きです。さらに驚くべきなのは、上述の研究では、「頭の中で考えていることを文章に翻訳する精度」は最大で97%に到達したことです。
脳チップで人間をアップデートする
今後、脳と人工知能の研究はどのような方向性で発展をしていくのでしょうか。本書の著者らは2018年から「池谷脳AI融合プロジェクト」を立ち上げ、人工知能を用いて脳の新たな能力を開拓し、脳の潜在能力を見極めることを目的に活動をしています。
そのプロジェクト活動の一つに「脳チップ移植」があります。これは、脳にコンピューターチップを移植することで、人間が本来は感知できないような情報を脳にインプットさせることができるようになります。まさにスマホのように、人間をアップデートする感覚です。
脳チップがあれば、複雑な思考や計算の手助けをしてくれるでしょうし、判断に迷う場面で適切な助言をくれるかもしれません。さらには赤外線や紫外線が知覚できるようなれば、いつでも自分の身体をレントゲン検査のようにスキャンして異常がないかをセルフチェックできるようになるかもしれません。
これからの未来
最先端のサイエンスやテクノロジーはワクワクするような未来を運んできてくれそうですが、使い方次第では非常に恐ろしいことにもなりかねない危険性を孕んでいる気もします。これからも人工知能の性能は着実に進歩していくことでしょう。シンギュラリティを迎える日も近いかもしれません。
もし、私たちが人工知能との融合を選択したとき、人は人で在り続けることができるのでしょうか。
「人間は考える葦である」とは、フランスの有名な哲学者・パスカルの言葉。人間は自然の中では葦のように弱い存在であるが、人間は頭を使って考えることができる。考える事こそ人間に与えられた偉大な力であることを述べています。
人工知能が人間を進化させるのか、はたまた退化させてしまうのか、筆者には分かりません。もしかしたら数年後、数十年後には脳チップがない生活など考えられない、スマホのように切っても切り離せないものになっている可能性もありますが、少なくとも今は考える葦でありたいと思います。