5月も後半に入り、配属された新入社員たちが本格的に実務に触れ始めている時期です。人事担当者や現場のマネージャーの皆さん、職場のOJTの様子はいかがでしょうか。
「ウチの先輩社員は本当に面倒見が良い。新人に手取り足取り熱心に教えてくれているから安心だ」
もしそんなふうに感じているとしたら、少し注意が必要です。
現場が良かれと思って実践している「丁寧で至れり尽くせりのOJT」こそが、数ヶ月後に「指示されないと動けない新人」を作り出す原因になっていることが珍しくありません。なぜ熱意ある指導が裏目に出てしまうのか、現場で起きているリアルな問題を見ていきましょう。
1. 先回りした過保護が、新人の考える機会を奪う
オフィスを観察していると、次のような光景がよく見られます。
先輩:「じゃあ、この資料の数字をこのExcelに転記してね。関数が消えると困るから、触るのはこの黄色いセルの部分だけ。終わったら声をかけて。次の指示を出すから」
新人:「はい、わかりました」(言われた通り、黄色いセルだけに数字を入力する)
〜30分後〜
新人:(先輩が電話中なので、じっと席に座して待っている)
先輩:「あ、終わってた? 終わったらすぐ言ってよ。じゃあ次はね……」
一見、トラブルもなく穏やかに業務が進んでいるように見えます。先輩は親切ですし、新人も素直です。しかし、このやり取りを繰り返された新人の頭の中はどうなっているでしょうか。
やっているのは指定された枠への入力作業であり、画面の指示通りにタップしているのと変わりません。なぜこの作業が必要なのか、この数字はどこから来てどこへ行くのか、次に自分は何をすべきなのかを考える余地が、先輩の丁寧すぎるナビゲーションによって埋め尽くされています。
今の先輩社員(特に20代後半〜30代前半の若手リーダー層)は、優しい人が増えています。自分が新人の頃に放置されて辛かったから後輩には同じ思いをさせたくない、新人に失敗させて他部署や顧客に迷惑をかけたくないという気持ちが強いようです。
ですが、ビジネスにおいて人間が最も成長するのは、小さな失敗をして、どうリカバリーするかを自分で考えた時です。丁寧すぎるOJTは、新人が味わうべき違和感や、小さな失敗のチャンスをすべて先回りして回収してしまいます。これは親切なようでいて、実は新人の成長機会を遠ざけているのです。
2. 手取り足取り教えるほど、新人は「待ち方」を学習する
人間は、繰り返された行動を習慣として身につけます。「指示をされる」→「やる」→「終わる」→「次の指示を待つ」。このサイクルを配属直後の数週間で徹底的に繰り返された新人は、仕事のやり方を覚えているのではありません。「仕事とは、上司から指示が降ってくるのをじっと待つものだ」というルールを学んでいるのです。
この環境に慣れきった新人は、配属から数ヶ月も経つと、指示を待つのが当たり前になってしまいます。そして秋頃になって、先輩やマネージャーはこう愚痴をこぼすようになります。
「ウチの新人、言われたことは完璧にやるんだけど、自分から『次、何かありますか?』って聞いてこない。主体性がないな……」
しかし、その状況を作ったのは、初期の関わり方そのものにあると言えます。
3. 実例:新人の自立度を分けた、ある2社の初動
ここで、同じような規模の2つの会社で実際に起こった、OJTのアプローチの違いをご紹介します。
【事例A:手順を完璧に揃えたOJTの結末】
ある企業では、新人の早期離職を防ぐために詳細なマニュアルを作成しました。先輩社員は毎朝、その日のタスクを細分化して新人に渡し、1時間ごとに進捗を確認。新人が少しでも迷っていそうなら、先輩が横から手を出して実演して見せました。
・その後の姿
半年後、新人は言われたルーティンはミスなくこなせるようになりましたが、マニュアルにないイレギュラーな顧客からの問い合わせが来た瞬間、完全にフリーズ。自分で調べることもせず、先輩に「どうすればいいですか」と聞くだけの、自立度の低い状態が続いてしまいました。
【事例B:目的だけを共有したOJTの工夫】
もう一方の企業では、全く異なるアプローチを取りました。配属初日、先輩は新人にこう伝えました。
「主要顧客5社のリストと、過去の提案書がこのフォルダにある。2週間後に、この5社が今どんな課題を抱えていそうか、自分なりの仮説をまとめて先輩たちの前でプレゼンしてほしい。やり方は任せる。社内の誰に話を聞きに行ってもいいし、ネットで調べてもいい。毎週火曜の15時に相談に乗るから、そこまでに質問をまとめておいて」
・その後の姿
最初の1週間、新人は大いに戸惑い、社内の色々な先輩に声をかけ、何度も断られながらも泥臭く情報を集ました。結果、2週間後のプレゼンは粗削りながらも、顧客のデータに切り込んだ内容になりました。この新人は、配属3ヶ月目で自分で課題を見つけて動く、自走型社員へと変わっていきました。
後者の先輩がやったのは、放置ではありません。「目指すゴールだけを明確に示し、そこへ至るルートの選択と試行錯誤の権利を新人に委ねた」のです。この適度な距離感が、新人の考える力を引き出します。
4. 今日から始められる、指示待ちから脱却するための3つの転換
もし、これまでのOJTが過保護になっていたとしても、今から接し方を変えれば十分に間に合います。現場の先輩たちに向けて、指導の手順を次の3つの形へシフトするよう伝えてみてください。
転換①:手順(How)を教えるのをやめ、成果の基準(What)を握る
「この手順でやって」と教えるのを少し控えてみてください。代わりに、最終的にどういう状態になっていればOKかという基準を共有します。
例えば、「この資料をコピーしておいて」ではなく、「14時からの会議で、参加者5人がすぐに議論を始められるように資料を準備しておいて」と伝えます。どう並べるか、ホチキスをどこに留めるか、何分前に部屋に置くかは新人に考えさせます。基準さえ満たしていれば、プロセスは新人に任せてみるのです。
転換②:すぐに答えを出さず、「君はどう思う?」と問いかける
新人が「これ、どうすればいいですか?」と聞きに来たとき、すぐに答えを教えてしまうのは、新人の考える仕事を先輩が代わりにやってあげているのと同じです。
これからは、新人が質問に来たら「君はどうしたいと思ってる?」「君の予想は?」と聞いてみてください。「A案とB案があって、私は〇〇の理由でAがいいと思います」という自分なりの考えを持たせることで、考える前に誰かに頼る癖がなくなっていきます。
転換③:タスクの「次」を新人に予測させる
一つの作業が終わった際、「終わりました。次は何をしますか?」と言させる前に、タスクを依頼する段階で「これが終わったら、次は何が必要になると思う?全体のスケジュールを見て、次にやるべきことをいくつか挙げてみて」と伝えておきます。
最初は的外れな内容でも構いません。「そこではなく、まずはこっちの確認が先だね」という修正のプロセスを重ねること自体が、新人の先を読む力を鍛えていきます。
5. まとめ:見守り、耐えることが、結果的に自立を促す
いつも新人の横に張り付き、忙しそうに口を出し、資料を修正してあげている先輩社員は、一見すると熱心な素晴らしい指導者に見えます。しかし、それは「自分が頼られている」という状態に、指導者側が安心しているだけかもしれません。
本当に指導が上手な人は、新人と共有すべきゴールを決めたら、あとは新人に打席を譲り、後ろで見守るスタンスをとっています。新人が頭を交代に悩んでいる姿を見ても、すぐに答えを出さずにじっと耐える。そして、本当に大きなトラブルになりそうな瞬間にだけ、そっとフォローを入れる。この「見守る、耐える」という姿勢こそが、自走するタフな人材を育てます。
手取り足取りの過保護なOJTを見直し、新人を信じて打席に立たせること。5月後半からのOJTのあり方として、まずは現場の先輩たちの「教えたい欲」を少しだけ抑える環境を作ってみませんか。
OJTで見直したい4つのポイント
① 手順ではなく、成果の基準を共有する。プロセスは新人の試行錯誤に任せる。
② 答えを教えず、本人の考えを先に聞くことで、思考のスイッチを入れる。
③ 致命的でない小さな失敗は、学びの機会としてあえて経験させる。
④ 先輩はナビゲーターではなく並走者。目的地を示したら、ハンドルは新人に握らせる。
人材育成でお悩みの方へ、
弊社サービスを活用してみませんか?
あらゆる教育研修に関するご相談を承ります。
お気軽にお問い合わせください。
-
- 人材育成サービス
- ビジネスゲーム、階層別研修、テーマ別研修、内製化支援
-
- DE&Iサービス
- ダイバーシティ関連の研修・講演・制作および診断ツール
-
- まなびスライドサービス
- 社内教育の「資料づくり」をゼロにする、PowerPoint教材の提供サービス
-
- 教育動画制作サービス
- Eラーニングなど教育向けの動画制作