研修には1クラスの適正人数がある。
プログラムによっても差があり、人数を明確に示すことはできないが、一人の講師が担当できる受講者数は限られている。
そこを超えればクラス編成を考慮しなければならない。
採用者が増え、今年は研修のクラス数が変わるという企業もあるだろう。良い人材を採用できることは嬉しいが、研修を企画運営するHRD部門は採用者数に比例して“気掛かり”が増える。費用面、安全面、オペレーションと注意すべき項目は多いが、複数となったクラスに対して一律に「研修の目的・ねらいを伝えきれるか」という根本的な問題も生じる。何故か。
「研修の質の統一化」は本当に難しい。
従来、研修は登壇講師の力量・個性によって成り立ってきた側面が大きい。
プログラム構成や挿話の組み込みはもちろん、受講者の反応に臨機応変に臨まなければならないからだ。
講師のファシリテーションは研修の成否を左右する能力だ。
だからこそ、多くの講師が専門知識を学ぶのと同等、あるいはそれ以上の比重で“話法”を磨く。
受講者を集中させるために、講義進行に緩急をとって押し引きをとりまぜる。
つい引き込まれるエピソードや魅力的な立ち居振る舞いなどは、講師が講師たる所以であり、研修会社が寄る辺とするところである。
とは言え、同じ内容の研修を複数クラスで実施する大型研修のとき、「研修の質の統一化」は運営成功の絶対条件だ。
したがって企業も研修会社も講師の能力に頼ってばかりではいけない。
たとえば、基本はあるが細部が明確でないビジネスマナー。時と場合によってマナーも変わる。それこそ「臨機応変に」と講師は伝えるが、A教室とB教室で着地点が違っていたら大問題だ。受講者に対するスタンスも登壇講師によって変わりやすい。「愛情をもって厳しく」と銘じながらも厳しさの基準は人それぞれ。経験豊富な講師は、その日の受講者によって口調や態度、フィードバックさえ調整できるものだ。研修当日の受講者に対するスタンスは、登壇講師全員ですり合せが必要だ。
新入社員研修の受講者は、クラス別の講師の違いに敏感だ。
口調やくせ、容姿に至るまで話題にあがる。企業も研修会社もこの話題が、受講者の他愛のないおしゃべりなのか、講義の本質を指すものなのかを見極めなければならない。教室によって指導が足りなくても、また踏み込み過ぎていても受講者に不公平感が生まれるものだ。
こうしたクラス間ギャップを避けるために必要なのが、研修会社の適切なリードだ。
企業理念や人材育成方針を含む企業情報、当該研修の指導方針、目的、ねらいなど、新入社員研修の核となる部分を網羅したガイドラインがあることが望ましい。
指導マニュアルやレッスンプランを用意して、講師との打ち合わせを行うのはもちろん、登壇する講師陣が顔を合わせ、プロならではの視点でカリキュラム進行のすり合わせをするのが理想的だ。講師には自分なりのストーリーがあるものだ。同じレッスンプランを読み込んでいてもアプローチが異なる事も多々ある。
講師陣が一堂に会することで、「研修の質の統一化」に向けベクトルが合っていく。
評価が高く人気のある講師はスケジュール確保が困難だ。故に打合せの為だけに集まってもらうのは難しい。恐らく、この時期は人気タレント並みのスケジュールで行動をしている方もあるだろう。実際のところ、講師陣のスケジューリングは研修会社の肝なのだ。
しかし、合同での打合せは重要である。これは複数クラス開催の研修に登壇した経験のある講師であれば「実感」として知っている。
どんなに有名カリスマ講師であっても、この打合せで他の講師陣や研修会社と協調ができず、自身のやり方を通そうとすれば複数クラス研修に登壇はできない。研修会社に割り当てられたその日は、やり直しのきかない貴重な一日だ。我々は企業の人材育成方針のもと、どのクラスにも新入社員がスタートをきるための有効な時間を提供しなければならない。
そのために研修会社は誰もが納得できる研修進行の確約を取り付ける事が必要だ。
企業担当者と研修の指導方針について話ができるのは研修会社だ。意向を汲み取ったプログラムを提供し、受講者にわかりやすいテキストや演習を用意する。そうして作成したレッスンプランが良いものであれば講師の協力を得ることができるだろう。
研修は講師の力量・個性によって成り立つ側面が大きいと述べた。講師による独自性をもった挿話やストーリー展開を組み込むことで、質の高い研修が実現するのも又、事実だ。しかし複数クラス開催の大型研修では、そのストーリーを制限して登壇して頂くことになる。恐らくやりにくい事この上ないはずだ。それを承知の上で、我々が作成したレッスンプランで進行してもらうには、普段からの講師陣との信頼関係が不可欠だろう。
大型研修の運営が成功するか否か、我々研修会社の生き様が問われている。
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