ヒップスターゲート

あゝ人材教育!3分ななめ読み

「権威」の持つ恐るべき魔力

2022.09.05

理不尽な業務命令でも部下が従ってしまうワケ

新人や若手社員のうちは、上司や先輩から仕事の指示を受ける機会が多々あります。
その中には傍から見れば、少し理不尽だと思えるような指示がある時もありますが、
大抵の場合、指示された側の本人は何の疑いもなく仕事を遂行しようとします。

この背景には、指示された側に充分な知識や経験が備わっておらず、
そもそも何が理不尽で、おかしな指示なのかが分かっていない、
というのが要因の一つとして考えられます。

その一方で "理不尽であることは分かりつつも従っている" 場合もある、
と言われたら、あなたはどのように思うでしょうか。

おそらくは「そんな馬鹿なことあるはずがない」と一蹴するでしょう。
しかし、過去に行われた実験結果をみてみると、
そんな馬鹿なことが現実として起こってしまうのです。

恐るべきミルグラム実験

ミルグラム実験というものを聞いたことはあるでしょうか。

アメリカの心理学者であるスタンレー・ミルグラムによる実験で、
閉鎖的な状況など特定の条件下においては、人は誰しも権威者の指示命令に従ってしまう
ことを明らかにしました。

その具体的な実験とは次のようなものです。

ミルグラムは、記憶に関する実験と称して、
2050歳までの男性を実験協力者として集め、彼らを教師役と生徒役に分けました。
教師は生徒に簡単な問題を出題します。生徒が間違えたら、
教師には生徒に電気ショックを流すよう指示しました。

また、電気ショックの電圧は開始時点では45ボルトで、
生徒が1問間違えるごとに15ボルトずつ電圧の強さを上げていくようにも伝えました。
450ボルトが最大で、それは危険をさらに超えた強さとして扱われていることを認識させました。

そして、いざ実験の開始です。
教師と生徒はそれぞれ別の部屋に分かれて、インターフォンを通じて出題と回答を行います。
教師は生徒に電気ショックが流れていると信じていますが、実際には電圧は流れていません。
つまり、生徒役はサクラ、というわけです。

問題を間違えた場合には、各電圧の強さに応じて、
あらかじめ録音された「生徒が苦痛を訴える声」がインターフォンから流されました。
電圧をあげるにつれて生徒の声は、まるで拷問を受けているかの如くの大絶叫となり、
とても演技とは思えない迫力でした。

その声に耐えかねて教師が実験の続行を拒否しようとする意思を示した場合、
白衣を着た権威のある博士らしき男が感情を全く乱さない超然とした態度で次のように通告しました。 

  1. 続行してください。
  2. この実験は、あなたに続行していただかなくてはいけません。
  3. あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。
  4. 迷うことはありません、あなたは続けるべきです。

4度目の通告がなされた後も、教師が実験の中止を希望した場合、その時点で実験は中止されましたが、
そうでなければ設定されていた最大ボルト数の450ボルトが3度続けて流されるまで実験は続けられたのです。

実験によって明らかになった「権威」の魔力

この実験を行うにあたって、ミルグラムはイェール大学で心理学専攻の4年生14人を対象に、
実験結果を予想する事前アンケートを実施していました。

大半は、実際に最大の電圧を付加する者はごくわずか(平均1.2%)であり、
一定以上の強い電気ショックを与える教師役は非常に少ないだろうと回答をしていました。 

しかし、実際の結果は実験協力者40人中26人(統計上65%)が用意されていた
最大電圧である450ボルトまでスイッチを入れた、というものでした。 

何人かの協力者は実験中止をに申し出ましたが、白衣を着た権威のある博士らしき男が強い進言で、
あなたは一切責任を負わないことを確認させると、
ついに300ボルトに達する前に実験を中止した者は一人もいませんでした。 

なぜ教師役の人々は、このような非人道的な指示に従ってしまったのでしょうか。
その理由をミルグラムは「エージェント状態」という概念で説明します。

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権威システムに参加する人物は、もはや自分が独自の目的に従って行動しているとは考えず、
他人の願望を実行するエージェント(代理人)として考えるようになるということだ。

(中略)

これを「エージェント状態」と呼ぼう。
これは、ある個人が他人の願望を実行しているものとして自分を理解したときの状態を指す。
この反対が自律状態となるーつまり、その人が自分独自で動いているときの状態だ。

出典:『服従の心理』
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ここまで読んでいただいた読者は、冷静に状況を判断できる状態であれば、
誰も生命を脅かすほどの電流を流すという残虐な行為はしないでしょう。

しかし、このミルグラム実験が示しているのは、
同様の事象は私たちの日常生活の中でも十分に起こり得る可能性を秘めている、
ということです。

閉じられた環境であることが多い職場で、
権力、権限といった権威を持つ上司からの指示であれば、
指示された側は上司の代理をつとめているだけなのだと考え、
例え理不尽なものであっても、安易に従ってしまうのです。

もし、あなたが部下や後輩に指示を与える権威側の立場にいるとしたら、
理不尽な指示・命令で服従させていないか、
定期的に振り返ってみた方が良いかもしれません。

 

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