ヒップスターゲート

ダイバーシティのプロが呟くアレコレ

多様性が活きるインクルーシブな組織づくり:ダイバーシティ推進のその先

2023.12.26

今日、多くの企業がダイバーシティ推進を経営課題の一つとして位置づけ、女性活躍推進の領域を超え、“ダイバーシティ&インクルージョン(以下D&I)”として、多様性が尊重され活かされる組織づくりに取り組んでいます。その際にそれぞれの言葉の定義や解釈は社内で共有できていますでしょうか。まずは社内でこの言葉をどのように解釈し定義するのかを話し合うことが大切です。ここではその手がかりとしていただけるようダイバーシティとインクルージョンのそれぞれの言葉の解説、そして企業におけるD&Iの必要性についてまとめています。

ダイバーシティとは

ダイバーシティとは日本語に訳すと多様性という意味です。様々な定義や表現がありますが、ここでは2つの切り口から説明します。一つは社会的な属性によってカテゴライズされやすい表層的多様性で、性別、国籍、年齢、人種、障害の有無などが挙げられます。もう一つは一見するだけでは分かりにくい深層的多様性で、個々人の価値観や経験、信条・宗教、キャリアなどが挙げられます。ダイバーシティの推進を文字通りに解釈するならば、組織の構成員に多様なメンバーを迎え入れる、つまり構成員の多様性を高めるということになります。

しかし、単に異なる属性や背景をもった人たちを組織に迎え入れ多様性を高めるだけでは、ダイバーシティを推進して得ようとする成果にたどり着くとは限りません。メンバーの多様性が増すほど、葛藤やミスコミュニケーションが起きやすく、意思決定に時間がかかります。また、チーム内の関係性が悪化するリスクも高まることは想像に難くないでしょう。そこで必要なのがインクルージョンの視点です。

インクルージョンの視点

インクルージョンとは、日本語では包摂性、包括性と訳されます。多様性が包摂されている状態とも言えますが、私はこのインクルージョンを2つの要素から成り立っていると説明しています。一つ目は“所属感”で、それぞれがチームや組織の一員であると感じることができる状態です。二つ目は“独自性・自分らしさ”です。この2つの要素のバランスが取れている状態がインクルージョンであると考えます。

つまり組織やチームの一員として受け入れられながらも、その文化や規範に完全に染まらず自分らしくいられる状態であり、同時に、独自性や自分らしさを発揮しながらも、排除されることなく一員として認められている状態です。コロラド州立大学のShore氏は、過剰な所属感のために、自分らしくいることができない状態を“同化”と言い、自分らしくいることはできるが所属感がない状態を“分化”と表現しています。そして、同化と分化の状態は葛藤や混乱もないが、その代わり創造も生まれないと述べています。

D&Iの取り組みは、「制度や仕組みづくり」「組織風土の醸成」「マネジメント層への働きかけ」など多岐にわたりますが、取り組みが企業に根差すかのポイントは、インクルージョンの視点、つまり所属感と自分らしさの両方のバランスが取れる状態を確保できるかにあります。

企業におけるD&Iの必要性

企業がD&Iに取り組むメリットですが、イノベーション、優秀な人材の確保、自分らしく働くことによるパフォーマンスの向上、企業価値の向上、リスク回避などが挙げられます。

しかし、このようなメリットがあるにも関わらず、よく耳にするのが「総論賛成・各論反対」という声です。このご時世、取り組みの必要性もメリットも分かるけれども、現場での実践は難しいと感じる方が、特に管理職層に多いようです。短期的な目標達成に向けて、自分もチームも成果を出すことが求められる場合、「多様なメンバーのマネジメントは難しい」という反応は一理あると言わざるを得ないでしょう。

それでもなおD&Iを進めていくには、トップのコミットメントと現場のキーパーソンである管理職の腹落ち感が肝となります。その際のポイントは3点あります。

一つ目は企業の経営理念やミッション、ビジョン、バリューとの紐付けです。D&Iの取り組みが自己目的化してしまうことなく、何のためのD&Iなのかを企業の大きな方向性とつながりを持たせることが大切です。二つ目は長期目標であるという理解の浸透です。つまり短期的にすぐに達成できるものではなく、企業の持続可能性に鑑みたときに、今、取り組みを始める必要性の高い課題であるという理解です。三つ目は、現場の課題感との紐付けです。先述したD&Iのメリットも、事業内容や職種、現場の状況でピンとくるものと、遠く感じられるものとが存在し得ます。その際に、今の現場の状況と照らし合わせながら、自組織(チーム、課、部署など)には、なぜこの取り組みが必要なのか、逆を言うと、このままD&Iに取り組まないと、5年後、10年後どうなるのかを想像してみることも大切です。

いかがでしたでしょうか。自組織のそれぞれの言葉の定義について、「擦り合っているようで案外擦り合っていないな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。目指す姿や何のために取り組むのかを丁寧に話し合うだけでも、その過程で多様な考え方や価値観を発見でき、取り組みが前進するでしょう。

<参考>

Johnson, K. Stefanie. (2021). Inclusify: The Power of Uniqueness and Belonging to Build Innovative Teams

Shore, M. Lynn. (2011). Inclusion and Diversity in Work Groups: A Review and Model for Future Research

Leonardelli, G. J., Pickett, C. L., & Brewer, M. B. (2010). Chapter 2 – Optimal Distinctiveness Theory: A Framework for Social Identity, Social Cognition, and Intergroup Relations. Advances in Experimental Social Psychology , 43, 63–113.

<執筆>
ダイバーシティ&インクルージョンコンサルタント
東京大学バリアフリー教育開発研究センター 特任研究員:藤原 快瑤

 

お気軽にお問い合わせください!月-金/9:00-18:00

お電話でのお問い合わせ 0354650506 メールでのお問い合わせ お問い合わせフォーム