HRD用語【ジョブシェアリング】
2020.06.03
ツイート雇用機会創出を目的に、フルタイム勤務者一人が担う職務を二人以上で分担して行う働き方。対象となった職務の成果や評価、処遇はチーム共同のものとされ、責任も同等に負荷される。欧米諸国で導入が進んできたが、日本においても、2020年の新型コロナ感染症の影響で職を失ったサービス業の従事者を中心に採用され話題となった。
なぜ、ジョブシェアリングなのか
1980年代のヨーロッパ諸国は高い失業率が社会問題となっていた。特にオランダでは、天然ガスの輸出拡大によって招いた通貨高でガス以外の輸出品が競争力を失い、これによる経済不況では失業率が14%(!)にもなってしまった。このとき採られた施策がジョブシェアリングであり、フルタイム勤務者の労働をパートタイム勤務者に振り分けることにより、失業率を下げることに成功したのである。
緊急避難的に始まったジョブシェアリングであるが、今日では、AIに代替えされる職種が多く予想されること、先進国の人口減少が顕著であることなどによる、労働力不足を解消する手段として注目されている。
日本においては、2019年4月に働き方改革関連法案が施行(一部)された背景がジョブシェアリングの推進理由と重なる。
・少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
・長時間労働の常態化
・多様な働き方への対応の遅れ
これら3点を是正するには「労働参加率をいかに上げるか」が課題である。
現在、労働市場に参加していない主婦や高齢者は、「勤務時間」や「体力の衰え」などの理由で職に就いていないと考えられるが、そうした障壁がなければ本当は働きたいと思っている人も少なくない。
株式会社メイテックが定年後再雇用されなかった2000名を対象に行ったアンケート調査(2017年)によると、再雇用されなかった理由について50%の人が、「職場が高齢者雇用に消極的だった」と答えている。労働参加率を上げるためには、こうした高齢者を含む「働きたいけれどその場がない」といった人たちの雇用を可能にする、柔軟なルールが必要とされている。
ジョブシェアリングのメリット・デメリット
企業にとってのジョブシェアリングのメリットは、主に次の3点と言える。
・何らかの理由でフルタイム勤務が困難となった優秀な人材の離職を防ぐ
・職務を分担させることで、業務を効率化させ残業を減らす
・豊富な人材を多用な雇用形態で確保することによって繁閑期の労働力調整が可能
労働者にとってのメリットは「ワークライフバランスの実現」である。前段で述べた「本当は働きたい人」だけではなく、生き方・働き方を見直してポートフォリオ型の人生設計をしようとする人たちも一定数いるだろう。
企業や労働者が積極的にジョブシェアリングを容認することによって、多様な働き方が可能な社会が実現されると考えられている。
一方で、ジョブシェアリングにはデメリットも存在する。
・雇用保険や労災保険などの採用時経費が高い
・雇用者数の増加に比例してバックオフィスの業務が増える
・職務を分担することにより、一人当たりの給与が減少する
ジョブシェアリングの導入が進んだヨーロッパ諸国に比較して、日本は雇用時の経費がかさむ。また、バックオフィスにおける一従業員あたりの管理業務が単純に増加することに加え、フルタイム、パートタイム、フレックス勤務など、雇用形態が多様になれば事務作業が複雑・煩雑化するのは免れない。
イギリスの電気機器メーカー・ダイソンでは人事責任者2名がともにパートタイム勤務でジョブシェアリングを続けた。ヨーロッパにおいても管理職でのジョブシェアリング導入はまだ少ないが、そうした中、自身の雇用を守りたいとするホワイトカラーの存在も否定できない。現に、厚生労働省が勤労者を対象として行った調査では、ジョブシェアリングを導入することによる不安として、実に63.8%(n値:4,000)が「賃金の低下」と答えている。企業側、従業員側の合意のないジョブシェアリングは、社内に混乱を招く可能性がある。
ジョブシェアリング、編集後記
日本は、2007年に超高齢化社会に突入し、2019年には高齢化率28%となった。そうした高齢者を介護する労働者もまた多い。少子化対策については2003年に少子化社会対策基本法が施行され、子育て支援対策や男女の働き方改革などが重点課題に挙げられている。
生産年齢人口の減少はそのまま国力の低下に通ずる。そのため政府も必死の対策を進めているが、多くの企業、そして労働者が高度経済成長の成功体験から抜け出せずに、残業を前提に働くことを普通に思っている。人材不足を長時間労働で補填する考え方だ。
この隠れたスタンダートが正規雇用の障壁となる場合もある。是正されない長時間労働やその周辺の社会通念にそぐわず、就労が叶わない人の数は多いだろう。職務を分担することで、給与所得が減少することや分担相手との相性など、ジョブシェアリングに課題は残る。しかし、気づけば「人生100年時代」。「働かねばならない」「働きたい」その指向性は違っても、各ライフステージに働ける職場が提供される国であってほしいと思わずにはいられない。