プロメン物語 最終話 さよならプロジェクトメンバー
2019.06.13
ツイートプロジェクトの終わり
「えー、お疲れ様です。それでは時間になりましたので、
これより業務改善プロジェクトのレビュー会を始めます。」
佐々木部長の野太い声がレビュー会の開始を告げた。
「前面のスライドをご覧ください。」
スクリーンには、今年1年間でプロジェクト活動がコスト削減に
どれほど貢献したかを示すグラフが映し出された。
「皆さん一人ひとりの努力と行動によって、会社はこんなにもスリムになりました。
以前よりも不良品は減って、廃棄コストも下がり、直接的な利益向上へと繋がったのです。
本当に皆さんのお陰です。会社を代表して御礼を申し上げます。」
入社してから、佐々木部長が深々と頭を下げている姿なんて見たことがない。
つまり、それだけ凄いことを僕たちはやり遂げたということなのだ。
このように感謝をされて嬉しくない人はまずいない。
何だか妙に誇らしかった。きっと他のメンバーも同じ気持ちだろう。
佐々木部長は「しかし」と言葉を続けた。
「会社が良くなったことは事実ですが、まだまだ私たちにはやらなければならないことがあります。
この結果に満足してはいけない、私はそう思います。私たちが次にやらねばならないことは継続です。
言うなればダイエットと同じです。続けなければリバウンドして、またすぐ元の体形に戻ってしまう。
そうならないためにも次のプロジェクトメンバーにバトンを渡して、走り続けなけらばならないのです。」
それからも佐々木部長は30分ほど熱く語られた。
「・・・というわけで、今回のプロジェクトはここで一区切りがつくわけですが、
皆さんが得た経験は何事にも代えられません。このメンバー同士の繋がりも同じです。
会社の仲間という以上の絆があるはずですから、ぜひ今後も大事にしてほしいと思います。
私からは以上です。本当にお疲れ様でした。」
来期からは新しいメンバーを集めて、活動を始めるということだ。
こうして僕たちのプロジェクトは幕を閉じた。
新たな旅立ち
「お疲れ様。ようやく解放されたー、って感じ?」
レビュー会が終わって間もなく、マナミちゃんが声を掛けてきてくれた。
「うーん、どうかな。長かったような短かったような。でも精一杯やったから達成感があるよ。」
「そうね。ねぇ、良かったら今日さ、お疲れ様会をやらない?」
「えっ、あっ、おっ、お疲れ様会!?
い、いいね。えっと、二人で?」
「バカね、二人なわけないでしょ。このメンバー10人で。」
突然のお誘いに戸惑い、素っ頓狂な声を出す僕。
しかもいきおい余って、いらぬことまで。
「それじゃ、今日は19時に"ぐでんぐでん酒場"よ。遅れないでね。」
「はーい。」
プロジェクト活動を通じて成長したと思ったけど、
彼女とのやり取りは一切成長しない自分自身の情けなさに呆れた。
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お疲れ様会はマナミちゃんの司会進行で大盛り上がり。
前々から準備を進めていたみたいだ。さすが仕事が出来る人は違う。
そして、時刻は21時を回った。
「みなさーん、宴もたけなわですが、そろそろお開きの時間です。
このプロメンが解散するのは、本当に名残惜しいですが、
同じ会社の仲間同士、また違うプロジェクトで頑張りましょう!
本日はありがとうございました。」
いかにも彼女らしい短い締めの言葉だ。
別れが寂しいのか感極まって泣き出す女性メンバーもいて、
マナミちゃーん、なんて言いながら抱きついていった。
さすがに男性陣は抱きしめに行くわけにはいかないので、
男は男同士で握手をしてハグをすることにした。
ひさしぶりのハグは何だか照れ臭かった。
お店から出ると、外は雨が降っていた。
何だよ、雨かよ。天気予報では晴れのはずだったのに。
ただでさえお別れで気分も少し沈みがちなのに、
雨まで降られてはたまったものではない。
最寄り駅までは遠くないものの、酔った体で歩くには少々きつい。
中堅社員のメンバーは多くがタクシーで帰るようだ。
そこにちゃっかり相乗りしようとする若手社員。
果たして僕はどうしたものか。
幸い折りたたみ傘は持っているし、そこまで酔ってもいない。
これなら駅まで歩こうかな、そう思案していると考えを見透かしたように、
「歩いて帰るんでしょ?傘持ってたよね?入れてくれない?」
マナミちゃんが急に顔を覗き込むようにして声を掛けてきた。
いつもなら驚いて変な声を出すところだが、
奇跡的にギリギリのところで踏みとどまった。
もしかしたら程よくアルコールが効いているせいかもしれない。
「あぁ、もちろん。一緒に帰ろう。」
自分でも驚くほど自然な返しができた。
これもアルコール効果なのかもしれないが、そんなことはどうでも良かった。
「えっ、あっ、そう!?ありがとう。
いつものように変なリアクションすると思ったのに残念。」
思惑が外れたマナミちゃんはそう言いながら少し顔を赤らめた、、、ような気がした。
駅までの帰り道、僕たちは他愛もない話で盛り上がった。
そうこうしているうちに最寄り駅に到着。
マナミちゃんとは行先が反対だから、この改札を通り抜けたら、お別れだ。
何か気の利いたことを言えれば最高なのだが、
あいにく僕にはそんな才能がないことは重々承知している。
「今日はありがとう。最後に加賀くんと話せて良かった。
また明日からよろしくね。それじゃ。」
「うん、それじゃまた。気を付けて。」
ありがとう、と満面の笑顔で立ち去っていく彼女。
結局、今日はその背中を見守ることしかできなかった。
でも、これで終わりじゃない。
仕事も恋愛もまだまだこれから。
始まったばかりじゃないか。
僕にやれることはたくさんある。
気持ちを新たに僕はホームへの一歩を踏み出した。