2015.05.25

なぜ企業がOJT制度を根付かせようと思うのならば、今までの方法ではダメなのか。

あゝ人材教育!3分ななめ読み

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今年も3月末日に厚生労働省は「能力開発基本調査」結果を公表した。
企業の人材開発の実態を平成13年度から毎年、調査公表しているもので、人材教育事業に携わっている方は目にしたことがあるだろう。
大まかな調査結果は次の通り。

・企業のOff-JTは、過去3年間の実績に比較し、今後3年間は「増加傾向」
・人材育成に何らかの「問題がある」と回答した事業所は5.2%増
(理由:人材および時間の不足、育成対象者の早期退職)
・自己啓発を行った人は前年比減(44.3%→43.3%)。問題点として「仕事が忙しく自己啓発の余裕がない」

(詳細な調査結果は厚生労働省のHPで閲覧可能)

さて、同調査に 「OJT」か「Off-JT」かを聞く項目がある。これには調査対象7200企業のうち73.4%(前回73.5%)が「OJTを重視」と回答しており、Off-JTと回答した企業は24.9%に過ぎない。前回と比較し、ほぼ横ばいの数字であることから、人材育成=OJTの概念は至極当然であり、Off-JTはその補完的な役割であることがわかる。

これほどまでに浸透した「OJT」であるが、研修業界に身を置き耳にするのは、「OJTが根付かない」という人事教育部門担当者の声だ。
一般的にモノゴトが組織や社会に根付かない理由として“人々の興味関心がない”“時代にそぐわない”“分かりにくい概念や物品”などが挙げられる。しかし、ことOJT に関しては、多くの企業が人材教育の軸と考えている。実際、職場では先輩に仕事のイロハを学ぶ後輩社員が多くいるはずだ。

では何を以って「根付かない」と思われるのか。
“OJT(On-the-Job Training)とは、職場の上司や先輩が部下や後輩に対し日常の仕事を通じて必要な知識・技術・態度などを意図的・計画的・継続的に指導すること”である。この意図的・計画的・継続的がOJTの難しいところだろう。
誰もが新入社員の教育には「集合研修とOJT」と考える。つまり、概念や必要性は浸透している。
根付かないのは“正しいOJT体系”である。

利益率を上げるため効率化をはかるのは企業の命題である。故に、かつてのような余裕をもった人員配置はなくなった。全ての社員が忙しく業務にあたる中で、人材教育にかける時間は事実、あまりに少ない。
OJTトレーナーもしかり。「忙しく時間がない、後輩指導は面倒だ。」これが本音だろう。
自身の担当業務に直結しない(気のする)“後輩指導”に力を注ぐのには大変なモチベートが必要で、当初こそ指導に熱も入るが、後輩が仕事に慣れ始めるのをきっかけに、指導はおざなりになっていく。
大なり小なり、多くの企業でこのような現象が起きているのではないだろうか。
一方、後輩のために時間を割き、丁寧に指導を重ねるOJTリーダーもいるだろう。教育を与える事は困難でストレスも大きい。特に1対1で行われるOJTでは、相手の個性とぶつかる事も多々ある。OJTトレーナーが役割を継続するにはパワーがいる。

こうしたOJTトレーナー側の負担を、企業側はフォローしているだろうか。
たとえば時間。OJTトレーナーに任命されるのは、業務の実行要員として中核となる世代である事が多い。そうした社員には普段から仕事が集中しているものだが、OJT期間中はその業務配分の見直しをする。また、精神的負担を軽減させるための、具体的なフォローも必要だ。

そして、重要なのは後輩指導を仕事として認知すること。
失われた10年と呼ばれるバブル崩壊後の期間で、日本社会はひどく個人主義に傾いた。給与も成果報酬制度が導入されて評価は年度毎となった。それは企業が長期的な人材育成から注意をそいだ期間であり、その後、人材の確保や教育の必要性は見直されたものの、経済不況がそこに時間・コストを割くことを許さなかった。
先に述べた通り、景気が上向いている現在、企業が教育研修にかける費用は増加傾向にあるが、効率やスピードを重視する企業体制はもはや普遍的なものとなっている。人材教育費はたしかにコストではあるが、企業にとって最も重要な投資と言ってよい。
OJTトレーナーが行っている後輩指導は、業務であり評価対象とすべき“仕事”なのだ。

形骸化しているOJT制度だが、提案書の作成や工場ラインでの生産と同様だと認識すれば、職場として支援することも可能だ。
そもそも、組織変革や経営計画の見直し、人員の異動もある中、OJTトレーナーが一人で育成計画を立てるのは難しい。また突発的に発生する仕事やトラブルはスケジューリングを困難にする。チームや職場で育成計画を話し合い進捗状況を共有すれば、OJTトレーナーだけに偏っていた負担を按分することができる。

もっとも、こうした取り組みが一朝一夕に受け入れてはもらえない事を誰もが知っている。
それは、OJTトレーナー同様、職場の面々が共通して「忙しく、時間がない。面倒だ」と思っているから。
しかし、当人同士で完結させるには、質・量ともにボリュームがあり過ぎるのがOJTだ。だから計画途中で立ち消えてしまい、結果「OJTが根付かない」という事になる。企業の人事・教育部門がOJT制度を根付かせようと思うのならば、今までの方法ではダメだと知らねばならない。OJTトレーナーと新入社員(後輩)が1対1で行う人材教育は制度とは呼べないだろう。チーム、職場、全社で関与してこその制度である。

私たちがOJT研修を提供している企業でも、かつて同じ悩みが聞かれていた。
しかし、制度導入後、本気で取り組んでいる企業には変化がある。
今でも課題は残るが、上司や職場を巻き込んたOJTの運用が実現しつつあるのだ。それには短くない時間と教育部門の根気がいる。
旗振り側の「意図・計画性・継続性」が問われているのだ。

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