ビジネスゲーム「Do★Do★Do」の凄い研修効果とは?
2014.10.09
ツイート昨今、多くの民間企業において、「課題に対し、限界を決めてすぐにあきらめる」「失敗を恐れて、前に踏み出せない」といった新人・若手社員における症状をよく耳にする。このような症状を放置しないための策として、どの企業も社員研修を行うなど対策に追われている。社員研修といっても内容は千差万別だが、ゲーム作りの考え方や手法を取り入れ、「実行型人材の創出」を実現する社員研修プログラムがあるという。株式会社ヒップスターゲートのビジネスゲーム『Do★Do★Do』という研修だ。”真面目に楽しむ(シリアスファン)”要素が強く、「難しそう」ではなく、「面白そう」と感じるノウハウを注入した研修プログラムで、受講者は最後までリタイアすることなくゴールできるという。開発責任者でもあるヒップスターゲート社長の渡邉氏に詳しく伺った。
開発責任者インタビュー
株式会社ヒップスターゲート
代表取締役 渡邉良文 氏
ビジネスゲーム「Do★Do★Do」は「答えのない課題に、恐れず挑戦できる人材」への自己変革を促し、「実行型人材の創出」を実現します。
Yoshifumi Watanabe
1976年神奈川県生まれ。富士通株式会社を経て、 人材育成業界へ転身。トップ営業として数多くの研修を企画、運営してきた。2007 年、日本を代表する大手電機メーカーの新入社員1200 人の研修を総責任者としてマネジメントし完遂。生来のチャレンジ精神、粘り強さに磨きをかける。現在、新人から管理職まで人材開発を幅広く手掛けており、支援企業は100 社を超え育成にかかわった受講者数は1 万人にのぼる。 自ら考案するビジネスゲームは受講者が研修に没頭できる環境をつくり、研修クオリティを恒常化させた革新的な内容となっており、業界の注目を集めている。
“ゲーミフィケーション”という言葉がある。ゲーム作りの考え方や手法を、ゲーム以外のサービスに応用することで、ユーザーは楽しみを感じたり、熱中したりしながらサービスを受けられるのだ。このゲーミフィケーションを反映し、多くの企業の間で評判となっている社員研修プログラムがあるという。
「『難しそう』ではなく、『面白そう』と感じるノウハウを注入した研修プログラムが「Do★Do★Do」です。受講姿勢を強固なものにするだけでなく、”真面目に楽しむ(シリアスファン)”要素も強いので、受講者は最後までリタイアすることなくゴールできるのです」
開発責任者でもあるヒップスターゲート社長の渡邉氏はそう説明する。「Do★Do★Do」は、ヒップスターゲートのゲーミフィケーションプログラムにおいて中心的なサービスの一つだという。同社のホームページで”真面目に楽しい”のキャッチフレーズで紹介されている、この研修の概要を紹介してもらった。
「知っている」を「できる」に変える実践プログラム
「Do★Do★Do」の特徴は、ビジネスの流れを疑似体験できること。受講生は知育ロボットの企画・製造・販売を行う仮想企業『株式会社ドゥーイング』の社員となり、ビジネスの現場を忠実に再現した環境で、実際に仕事(受講)を行う。ビジネスマナー、報連相、議事録作成など、業務スキルの発揮場面が随時用意されており、それぞれが鍛えられるように工夫されている。これは、ビジネスマナーやマインドの研修で学んだ一つひとつのスキルを、実践の場(Do★Do★Do)で繰り返す事によって、習慣化を促すのが目的なのだそう。「研修を受けてから職場に戻ると、実践力がついていることが分かりますよ」と渡邉氏は断言する。確かに、「知っている」と「できる」の違いは大きい。ビジネスの現場を忠実に再現しているのは、まさに「できる」能力を受講者に身に付けてもらうためなのだ。
「受講者はチームに分かれて、楽しくて子供たちのためになる知育ロボットを、ブロックを使って開発します。チームワークが必要ですし、時間的・物質的なコストも意識しなければなりません。情報共有、JOBアサインが上手くできないチームは、途中で組織として崩壊します。すると当然、売上は上がりません」 ゲームには勝敗が付き物。ビジネスゲーム「Do★Do★Do」も例外でない。勝者・敗者を分けるのは、仕事の成果として開発した商品の売上である。
「勝ち負けを強調はしませんが、研修ストーリーに没頭すればするほど、他チームに負けたくないという気持ちになりますね。短い研修日程ですが、チーム運営や個の能力、貢献意識が確実にゲームの成果を左右します」
「Do★Do★Do」研修の狙いは、大きく分けて3つあると渡邉氏。「目的意識の強化」「自責思考意識の強化」そして「自己管理意識の強化」だ。商品を販売するには、時間的・物質的に制限がある。その中で効率を考えなければならないため、チームには目的意識が必要となる。同時に、メンバー一人ひとりにかかる責任やストレスを克服しないといけないため、自責思考意識・自己管理意識を強める必要も生じるのだ。
受講者はチームに分かれて、楽しくて子供たちのためになる知育ロボットを、ブロックを使って開発する。チームワークも必要となり、時間的・物質的なコストも意識しなければならない。
受講者がセリフに集中するメカニズムとは
ヒップスターゲートのホームページには、「Do★Do★Do」の登場人物であるキャラクターが6名紹介されている。そのうち5名は、「株式会社ドゥーイング」の幹部なのだそう。「Do★Do★Do」は、一部が動画で進行する仕組みになっている。実際に使われる映像を見ながら、プログラムの流れを説明してもらった。まず、スクリーンに実写のオープニングムービーが映し出される。男性の出勤風景からは、仕事に立ち向かいチャレンジする気持ちが伝わってくる。続いてキャラクターが登場し、アニメーション画像が流れて本編が始まる……と、ここで一つの疑問が生じた。研修プログラムに動画を使用するのは何故なのだろうか。
「アニメーションの利点は、単純に垣根が低いということです」渡邉氏はそう説明する。
「初めは緊張していた受講者たちも、アニメーションが流れると『何だ?』という表情になり、自然とキャラクターのセリフに集中します。研修の狙いに繋がるキーワードやストーリー展開で、重要な部分をキャラクターに話させるようにしているので、より印象的に伝える事ができるのです」
アニメーションにすることで、受講者がキャラクターのセリフに集中するというメカニズムを利用しているのだ。そもそも受講者は、研修会場でアニメキャラクターに出会うとは思ってもみないから、その登場にまず驚く。この驚きこそが一番の仕掛けなのだろう。
ここでもう一つ疑問がわく。多くの研修では、目的やストーリー展開を伝えるために講師がいる。「Do★Do★Do」では、その役割をキャラクターが行っている。では、このプログラムにおける講師の役割は何だろう。
「研修は伝える側と受け取る側のやりとりが不可欠です。「Do★Do★Do」でもより納得感を高めるために、講師がファシリテーションをします。登場するキャラクターは、それぞれが株式会社ドゥーイングの本部長という役職ですが、講師にもちゃんと役職があるんですよ。だから研修中、”受講者と講師”は”部下と上司”の関係で進行します」
なるほど、オープニングムービーが流れた瞬間から、研修会場は完全に株式会社ドゥーイングとなるわけだ。受講者をストーリー展開や世界観に引き込む仕掛けも、そこかしこに施されているという。例えば研修で使用する備品。商品を企画して販売するまでに提出する数種の帳票には、株式会社ドゥーイングの会社ロゴがデザインされている。受講者にリアルなビジネス体験をしてもらうための拘りがよく分かる。
「受講者が現実に戻ってしまわないように、帳票類や備品も実際に企業で使用することをイメージして作りました。アニメーションにしても、ここまで作り込むと、プログラムを更新する時は一仕事ですが、研修運営の観点では質の標準化が可能なので都合がいいんです。当社では「Do★Do★Do」ツールのレンタルもしていますが、こうした作り込みがあってこその展開です」
何でも社章バッジを作成する案もあったが、コストがかかるのと本編に関係がないという理由で、さすがに見送りになったのだと、渡邉氏が裏話を明かしてくれた。
アニメーションを見せることで、より現場のリアリティを忠実に再現したビジネス体験を実現。
研修の内製化を支援するサポート体制
ところで、渡邉氏が口にした「Do★Do★Do」ツールのレンタルとは何だろうか。研修プログラムの実施はしても、貸し出すという話はあまり聞いたことがない。
「内製化支援の一環でスタートしました。研修の内製化は、企業にとって教育研修費用の削減、文化の継承などのメリットがあります。当社ではそうした研修内製化を企画するHRD部門への支援サービスを進めており、登壇される社内講師向けのマニュアルをはじめ、コミニュケーションを学ぶ教育ゲーム等の貸し出しも行っています。「Do★Do★Do」はご覧のようにツールが多いですし、展開も単純ではないので、しっかりと支援体制を整えました」
確かに、動画などの数あるツール類を使いこなすのは難しそうだ。まして社内で講師を立てる場合、その人の経験や実績に基づいた得意分野で登壇することが多いはず。研修会社が実施してきたプログラムを、本当に自社で進行できるのだろうか。
「問題ありません。「Do★Do★Do」を社内講師で実施することが決まったら、まず勉強会の機会を設けます。
また登壇される方、アシスタントとして補助をされる方を対象に『体験会』や『説明会』を実施し、一度リハーサルをする事もおすすめしています」
体験会では、講師役の社員が受講者となって「Do★Do★Do」に触れ、このプログラムから学ぶべきモノを自分自身で掴んでもらう。ストーリーやツールの使用方法は、この時に実地として覚えられる。リハーサルでは、「Do★Do★Do」に登壇しているプロの講師が、フィードバックの仕方や、基本的な所作などのアドバイスも行う。研修を実施する日の流れも把握できるので、体験会は非常に有益なのだという。
会社で働く事をモチーフにした研修には、様々なアプローチがある。最近のトレンドは、指導側の問題提起を受講者が議論する事によって答えを見つけるもの。自ら気づきが得られるので納得感があり、受講者にもHRD部門の担当者にも人気がある。しかし、このスタイルは、受講者側がどのような着想をするか予想がつかない場合があるので、高度なファシリテーション能力を要する。社内講師がプロの講師のような成果を生むには、相応の訓練が必要なのだ。一方で「Do★Do★Do」は、定められたプラン通りに進行すれば、受講者の反応が予想できるまでに作り込まれている。指導側が気をつけなければならないのは、ストーリー展開や研修ツールの使い方を間違ってしまうこと。些細なことで受講者に不信感を抱かせてはならないという。
実際に説明会で使っている資料を見せてもらった。分刻みで記されたレッスンプラン、写真やイラスト入りのマニュアル、プログラム中に予想される受講者の行動などが細かく記されている。分かりやすく書かれているが、そこそこ分量もあるため、思わず「これを全部覚えないといけないのですか」と聞いてしまった。
「進行が曖昧だと受講者の心は離れてしまいます。ですので、資料に記載した事柄はすべて覚える必要がありますね」
でも大丈夫です、と渡邉氏は笑顔を見せる。
「「Do★Do★Do」には6名のアニメキャラクターがいて、大事なところは彼らが伝えてくれますから。それに文章だと大量に思える情報量ですが、プログラムの流れは体験会を通じて体感することで覚えられます。長めのセリフもありますが、研修に登壇することを思えば適切な量ではないでしょうか。受講者がチームで仕事をする間に次の展開を確認して、落ち着いて進行していただけますよ」
前述した通り、「Do★Do★Do」の目的は①目的意識 ②自責思考意識 ③自己管理意識を受講者に感じてもらうことと明確に定めており、すべての仕掛けがその目的にベクトルを合わせている。そのため、受講者はこの3つに関して必ず気づきを得られるという。プログラム中に意図的にかけるストレスの大小や、タイミングによって気づきは操作されているが、受講者にとっては自らたどり着いた内省に変わりはない。昨今の研修トレンドである「問題提起と議論」を絵コンテとして確実に組み込みつつ、受講者の自発的な自己変革を促す特異な研修プログラムこそが「Do★Do★Do」なのだと、取材を通じて理解することができた。