2017年度から本格的にスタートする「働き方改革」。
企業そして私たち一人ひとりは、どのようなアクションを起こすべきなのだろう。
2016年に行われた「働き方実現会議」に、有識者議員として参画した少子化ジャーナリストの白河桃子氏に、当社の代表・渡邉が伺った。
従来の働き方は、時代に合わない
渡邉 最近よく聞くようになった「働き方改革」ですが、白河さんは有識者として、働き方改革実現会議にも出席されていますよね。どのような趣旨の改革か、教えていただけますか。
白河働き方改革とは、労働の生産性向上を目指した改革です。具体的には「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金の制定」「高齢者の就業支援」「副業兼業」「テレワーク」などが実行計画案に盛り込まれています。
私たちの社会は、第二次世界大戦後に制定された労働基準法に則った働き方でつくられてきました。高度経済成長やバブル期はそれで通用しましたが、現代は少子高齢化や女性の社会進出が進んでいます。そのため、従来の労働制度では不十分な点がいろいろと出てきている。
つまり働き方改革の本質は、現代に合わないビジネスモデルを変えるというアクションだと思っています。
渡邉そうなんですね。「働き方改革」という言葉だけが先走っているイメージがありましたが、企業もビジネスモデルを見直す必要があると。
白河はい。ただの残業削減やリモートワークを取り入れるだけが「働き方改革」ではありません。評価の仕方や報酬の設計、ビジネスモデル自体など、あらゆる面を見直す必要があります。中でも「長時間労働の是正」は家族と過ごす時間を増やせるので、女性活躍、男性の家庭参加、仕事と家庭を両立できる大きなきっかけになります。少子化対策に注力している私としては、一番強調したい改革案です。
経営トップ、中間管理職、社員が一丸となって動く
白河桃子(しらかわ・とうこ)
少子化ジャーナリスト、相模女子大学客員教授。少子化や女性活躍推進、働き方改革、ダイバーシティなどをテーマに活動を行っている。学生や若手社会人に向けて、ライフキャリアについての出張授業も実施。2016年より、内閣官房が設置する「働き方改革実現会議」の有識者議員。著書に『女子と就活』『産むと働くの教科書』「専業主婦になりたい女たち」「専業主夫になりたい男たち」などがある。
渡邉働き方改革に関連した活動として、白河さんはほかにどのようなことをされているのでしょうか。
白河ずっとやっているのは、大胆な労働時間改革やテレワークなどの働き方改革を行っている経営者にお話を聞き、記事を書いたり、講演で事例としてお話をすることです。
渡邉お話を伺って、印象に残った経営者はどのような方ですか?
白河独自の働き方改革を掲げている、大手コンサルティング会社の社長ですね。この会社は会社全体のプロジェクトとして働き方改革を導入しました。長時間労働が当たり前のコンサルという仕事の価値観を180度変えました。具体的には、上司は徹底したアウトプット評価、18時以降の会議を設定しないといった取り決めがあります。またクライアントと結ぶ契約書には、働き方改革を促進するための協力をお願いしたいという趣旨の文言を記載しています。これによって、定時を大幅に超えるスケジュールを、先方から求められても、現場レベルで見直すことができます。
社長はこれらの取り組みを1年半かけて行い、かつては不夜城だったコンサルティング会社を、月に平均ですが30時間の残業で済むまでに改善させました。顧客都合に左右されるから無理という他社も見習うべきだと思います。
渡邉 契約書、つまりビジネスモデルを根本的に変えようとしたんですね。大手企業が成果を出したというのは、勇気づけられます。
白河 そうですね。また働き方改革の実現のために、この経営者が持っているような「覚悟」も必要です。企業のトップは、ビジネスモデルを変えることに、なかなか着手したがりません。先の例のように労働時間が短縮されれば、今までの業務を限られた時間で行う必要があります。ただ帰れだけでは、下手をすれば売上が落ちる。でもそのリスクを取って、社員全員に新しい働き方を浸透させていかなければ、企業は変わりません。
渡邉 では会社の中で改革に向けた風土作りを行うとき、何を念頭に考えていけば良いのでしょうか。
白河 下の図をご覧ください。経営のトップは、率先して改革を行う必要があります。まずは「○時強制退社」など起こすべきアクションを決めたら、それをささえる仕組みやITツールなどの導入を決断し、幹部や中間管理職を説得する。中間管理職や部下たちはその制度に従って、業務効率の改善や情報共有を現場レベルで実践していきます。同時に社内外に取り組みを知らせて、クライアントからの理解も得られるようにする。この4象限の行動すべてが動くと、1年半から二年で最終的に会社の風土が変わっていきます。
たとえば100年以上の歴史がある大手証券会社は、2007年から社員に対して19時前退社を強力に推進しています。長時間残業が当たり前だった働き方を変えたんです。
制度が変わる前に働いていた人は、長時間働くのが良いことだという刷り込みがあります。しかし改革後、若手社員が入って徐々に人が入れ替わると、残業せずに成果を出して働くことが当たり前になってくる。すると社内のDNAが変わり、19時までに業務を終わらせる働き方しかしなくなります。実際、長時間労働をしていたときより、はるかに生産性が良くなります。
仕事にかかる作業時間をあぶり出す
渡邉良文(わたなべ・よしふみ)
富士通株式会社を経て、人材育成業界へ転身。営業責任者として数多くの研修を企画、運営。 2010年に株式会社ヒップスターゲート設立。現在、講師派遣型の企業研修をはじめ、研修内製化支援、研修コンテンツの企画・販売等を手掛ける。 渡邊の開発した、ビジネスゲーム型研修「Do★Do★Doシリーズ」は、受講者が研修に夢中になる環境をつくり、 研修クオリティを恒常化させた革新的な内容となっており、ヒップスターゲートの中心的サービス。
渡邉 図にあるように、働き方改革はトップだけではなく、社員一人ひとりが当事者意識を持って行う必要があると思います。社会や経営者に任せるだけではなく、個々人がすぐにできることは何でしょうか?
白河 まずは「時間」という資源に注目すること。チーム全員のカレンダーをネット上で共有し、その日にすべき業務と時間をセットで記入してもらうようにしましょう。プライベートの時間も、内容は書かなくていいので入れてみてください。日本企業は、業務の終了時間を決めて仕事を進めることを、あまりしてきませんでした。しかし作業時間を意識することは、働き方改革において非常に重要です。
たとえば予想よりも30分の業務時間の誤差があったり、一人ではできないことに気づいたりといったことが判明します。そうすると、仕事の進め方を工夫するようになるでしょう。現代は社員の労働時間を把握するアプリケーションや、サービス残業をあぶり出せるツールがありますから、IT投資も有効な手段になりますね。
渡邉 なるほど。しかし、一人ひとりがアクションを起こすことが大切なのは、分かっていても、多くの社員が実践することですから、問題も出てくると思います。
白河 はい。ですから、まずは実行してみて問題が生じればPDCAを回して解決していけばよいと思います。たとえばある企業で、リモートワーク制度を強制的に社員に取らせたそうです。すると、家族から邪魔になると言われた。そこで会社はコワーキングスペースと契約して、リモートワーク用の場所を設けました。この企業のように、実施してみて何か問題があれば対策を講じていく姿勢が重要になるでしょう。
渡邉 ありがとうございました。最後に、どのような結果が生まれたら、企業の働き方改革は成功したと白河さんはお考えですか?
白河 売上が増えた、離職率が低くなった、良い人材を採用できたなど、成功したかどうかは、企業が抱える課題を解決できたかによると思います。私が一番良いなと思う変化は、ダイバーシティが実現し、女性の管理職が増え、社内の出生率が上がること。これは女性が出産・子育てをしやすい会社を意味しますが男性ももちろん働きやすくなり、家庭参加や自己研鑽ができます。イノベーションも起きます。最終的には業種を超えて、誰もが働きたいと思える魅力的な企業になっていることが理想ですね。
対談を終えて
この度、白河桃子氏に直接お話を伺えたことに大変感謝している。白河氏が様々な活動でご覧になった働き方改革の取組み事例は、大いに我々の勉強になった。現在、内閣官房主導の潮流ではあるが、今一度、主人公を見極めるべきと感じる。白河氏のお話のように、この改革の成功は、企業DNAが変化するかどうかだ。経営者と社員双方のコンセンサスとコミットメントが当事者意識を生む鍵だろう。 (渡邉良文)
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