はじめに:なぜ、あなたの部下は「指示」を待つのか
「うちの若手は、言われたことしかやらない」 「もっと主体性を持って、自分で考えて動いてほしい」
多くのマネージャーやリーダーが抱えるこの悩み。しかし、厳しい現実を直視すれば、部下が指示待ち人間になっている場合、その原因の多くはリーダー自身の「関わり方のスタイル」にあります。
多忙な現場において、リーダーは効率を優先し、「答え」を先に与えてしまいがちです。「こうすればいい」「あそこを確認しておいて」という的確な指示は、短期的には業務を円滑に回しますが、長期的には部下から「思考の機会」を奪い続けています。部下はいつしか、「自分で考えるよりも、上司の指示を待ったほうが早くて正確だ」という学習性無力感に陥ってしまうのです。
この「指示の罠」から抜け出し、部下の内側にある主体性を呼び起こすための唯一の手段が、「コーチング」です。コーチングとは、単なるコミュニケーション技術ではなく、相手の可能性を信じ、自発的な行動を促すための「関わり方の哲学」です。
今回は、部下を自走させるための具体的なコーチングの「型」と、その実践におけるポイントを深く掘り下げていきます。
第1章:ティーチングの限界と、コーチングへのパラダイムシフト
マネジメントにおいて、ティーチング(教えること)とコーチング(引き出すこと)は車の両輪です。しかし、多くのリーダーはティーチングに偏りすぎています。
1. 答えを与えることは、成長を止めること
ティーチングは、知識やスキルのない新人に対しては有効です。しかし、ある程度の経験を積んだ部下に対してもティーチングを続けてしまうと、彼らは「上司のコピー」にしかなれません。コーチングは、部下の中にすでにある答え、あるいは新しい視点を引き出すことで、リーダーの想定を超える成長を促します。
2. 「伝える」から「問う」への転換
コーチングの核心は「質問」にあります。リーダーが自分の意見を伝える前に、「あなたはどう思うか?」「他にどんな選択肢があるか?」と問いかける。この「問い」によって、部下の脳は初めて自分事としてフル回転し始めます。主体性とは、強制されるものではなく、自分の中に芽生えた「問い」への答えを探すプロセスから生まれるのです。
3. 「効率」を捨てて「投資」を選ぶ
コーチングには時間がかかります。自分で教えたほうが5分で終わることも、コーチングを使えば30分かかるかもしれません。しかし、その30分は、部下が将来にわたって「自ら考え、判断できる」ようになるための投資です。目先の効率を捨て、部下の自律という未来の資産に投資できるかどうかが、リーダーの器を決めます。
第2章:主体性を引き出すコーチングの「基本の型」
コーチングを効果的に機能させるためには、場当たり的な会話ではなく、洗練された「型」に従うことが重要です。その代表的なものが、目標設定から行動までを導くプロセスです。
1. ゴールの明確化(何を成し遂げたいか)
まずは、対話の着地点を明確にします。「今日、この時間の終わりにどうなっていたい?」という問いから始め、部下自身が目指すべき姿を言葉にさせます。目標が「与えられたもの」から「自ら宣言したもの」に変わった瞬間、当事者意識が芽生えます。
2. 現状の把握(今、何が起きているか)
事実と感情を分けて整理させます。上司の解釈を挟まずに、「客観的に見て、今はどんな状況か?」「何が壁になっているか?」を聴き切ります。現状を正しく認識することで、理想と現実のギャップが浮き彫りになり、解決へのエネルギーが生まれます。
3. 選択肢の創出(何ができるか)
ここがリーダーの腕の見せ所です。「もし何の制約もなかったら、何をしたい?」「過去の成功事例を応用するとしたら?」と、視点を広げる質問を投げかけます。部下が「自分にはこれだけの選択肢がある」と気づくことが、主体性の源泉となります。
4. 意志の確認と行動計画(いつ、何をやるか)
最後は、具体的なアクションに落とし込みます。「まず何から始めるか?」「いつまでにやるか?」と、最初の一歩を明確にさせます。自分で決めた行動計画には、他者からの指示にはない「やり遂げる責任」が伴います。
第3章:コーチングを阻害する「リーダーの癖」を自覚する
どんなに優れた型を知っていても、リーダー自身の無意識の癖がコーチングを台無しにしてしまうことがあります。
1. 「誘導尋問」の罠
「〇〇したほうがいいと思わない?」という質問は、質問の形をした指示(誘導尋問)です。部下は上司の意図を察し、正解を答えようとします。これでは主体性は育ちません。コーチングにおける問いは、常にオープンで、部下自身の思考を解放するものであるべきです。
2. 「沈黙」を待てない焦り
問いを投げかけた後、部下が考え込んでいる「沈黙」の時間。この沈黙に耐えきれず、リーダーが先に喋ってしまうと、部下の思考は停止します。沈黙は、部下の脳が最も活性化している「成長の瞬間」です。その時間を信じて待つ忍耐強さが、コーチングの質を決めます。
3. 「心理的安全」という土壌の不在
「こんなことを言ったら否定される」「できない奴だと思われる」という恐怖がある場所では、コーチングは機能しません。部下が自分の未熟さや失敗、あるいは突飛なアイデアを安心して口にできる土壌(心理的安全性格)があって初めて、コーチングによる主体性の引き出しが可能になります。
第4章:現場の「葛藤」を乗り越える ―実践力を磨くための視点
コーチングの型を理解していても、実際の現場ではリーダーを悩ませる「正解のない場面」が数多く存在します。
「間違った答え」が出たとき、どう振る舞うか
コーチングの中で、部下が明らかにリスクのある選択肢を選ぼうとしたとき、リーダーは激しい葛藤に襲われます。ここで即座に「それはダメだ」と否定すれば、それまでの信頼関係は瓦解します。大切なのは、否定ではなく「その選択をした場合、最悪のシナリオはどうなると思う?」と、リスクを部下自身の視界に入れさせる問いかけです。
自信を失っている部下へのアプローチ
「自分で考えろ」という言葉が、時として部下を追い詰めることもあります。主体性を引き出すためには、相手のコンディションを見極める目が必要です。自信を失っている相手には、過去の成功体験を掘り起こす問いかけを行い、自己効力感を回復させることが、思考のエンジンを再始動させる鍵となります。
「型」をいつ手放すか
熟練のコーチほど、最後は型に固執しません。相手との対話のリズムに合わせて、時には静かに寄り添い、時には鋭く切り込む。こうした「変幻自在な対話」ができるようになるためには、まず基本となる型を徹底的に使いこなし、自分自身のコミュニケーションの癖を客観視し続ける内省(リフレクション)が欠かせません。
まとめ:リーダーが変われば、チームは自律し始める
「指示待ち」の部下を責める前に、リーダーは自身の「問い」を振り返る必要があります。 部下の可能性を誰よりも信じ、答えを教える代わりに問いを投げ、彼らが自ら歩み出すのを辛抱強く見守る。この地道なコーチングの積み重ねだけが、指示待ち組織を、自律と創造性に満ちたチームへと変貌させます。
部下が「自分で考えて動けるようになった」と感じる瞬間、リーダーは自分自身の役割が「管理」から「支援」へと昇華したことに気づくはずです。あなたの問い一つが、部下の人生、そしてチームの未来を変える種になります。まずは、今日の一言を「指示」から「問い」に変えることから、始めてみませんか。
部下の主体性を引き出す「コーチングの型」を習得するための研修スライド(資料)
今回のコラムで解説した「指示待ちからの脱却」や「問いによる自走」を、社内でより具体的かつ実践的に学び、リーダー・マネージャーの意識を変革したい。そんなニーズにお応えするための、私たちが作成した研修スライド(資料)をご紹介します。
■ ケーススタディ:部下の主体性を引き出す「コーチングの型」研修スライド(資料)
https://manabislide.base.shop/items/132054869
この研修スライドは、部下や後輩の主体性を引き出し、自ら考えて動く組織へと変革するための実践的な手法を習得することをねらいとしています。
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ねらい: 部下や後輩の主体性を引き出すコミュニケーション(コーチング)の手法を学び、実践することで、指示待ちの状態から自ら考えて動く自律型組織への変革を目指す。
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実践的な学び: リーダーが直面するリアルな場面を題材にした「ケーススタディ」を豊富に盛り込み、単なる理論に留まらない「現場で使える判断軸」を、教育効果の高いスライド構成でまとめられています。
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柔軟なカスタマイズ: PowerPoint形式のため、自社の組織文化や、現場のリーダーが実際に苦労している具体的なケースに合わせて、スライド内容を自由に調整可能です。
「指示を出すリーダー」から「可能性を引き出すリーダー」へ。チームを自走させ、組織の実行力を底上げするための教育ツールとして、ぜひご活用ください。
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