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東大教授・星加良司が語る「組織変革のためのダイバーシティ ~多様性を強みに繋げるインクルーシブ・リーダーシップとは~」

2023.06.28

インクルーシブ・リーダーシップが求められるのはグローバルな潮流ですが、日本と欧米とでは、インクルーシブ型リーダーが組織に与える影響について捉え方が異なります。 欧米では、「インクルージョンの推進が組織パフォーマンスの向上にポジティブな効果を与える」という認識がスタンダードであるのに対し、日本ではむしろ「両者は二律背反的でバランスを取る必要がある」というイメージが根強く残っています。 では、多様性のあるメンバーの能力を引き出して組織パフォーマンスを高める、真の「インクルーシブ・リーダーシップ」とはどのような概念なのでしょうか。

セミナー名

組織変革のためのダイバーシティ ~多様性を強みに繋げるインクルーシブ・リーダーシップとは~

アジェンダ

・なぜ「インクルーシブ」であることが必要なのか
・「インクルージョン」を阻害するもの
・新しいリーダーシップのスタイル
・インクルージョンのための「リーダーシップ」と「組織文化」

なぜ「インクルーシブ」であることが必要なのか

ダイバーシティは、インクルージョンとセットでD&Iとして語られることが多いです。近年は、そこに公平を意味するエクイティ、エクオリティの頭文字「E」を取ったDE&Iという新たな概念が浸透するようになりました。

日本がダイバーシティに着目し始めたのはここ10~15年のことです。

ダイバーシティとは、これまで社会の中で十分な活躍機会を与えられなかったマイノリティの参加を促進し、組織や社会で能力を発揮できる状態を作ることです。 社会的マイノリティの参加を促進する必要性は大きく分けて、規範的な観点と実利的な観点の2つです。

規範的な観点

規範的な観点とは、わたしたちは社会の中でどうあるべきか、あるいは、どうあることが正しいのかという「べき論」のことです。

私たちが追求すべき社会の状態について、もっともオーソドックスなのが「機会の平等が満たされている社会」であり、私たちはこの状態の実現を目指し、目指さなければなりません。

しかし現実的にみると、マイノリティと言われていた人たちは、これまで十分な社会参加の機会を与えられてきませんでした。 例えば管理職に女性が少ない、障がい者雇用が進んでいない、あるいは外国人の活躍機会が限られている、など日本社会全体で偏りが生じているのです。

これはジェンダーギャップ指数などの数字でも表れており、とりわけ日本は非常に低い位置にあることが問題になっています。

このような偏りが生じる理由として、何らかの社会的な要因が働いているからと言うことができます。

人種、性別によって私たちの能力差が違うことが疑似科学として語られることがあります。それらは全くの誤りではないですが、差があったとしてもわずかで、それよりも個人差の方が圧倒的に大きいことが科学的に知られています。

人種や性別によるポテンシャルの差は大きくないにも関わらず、結果として比率に差が生じているのは、何らかの社会的な要因が働いているはずです。

そのため、我々は「べき論」に則って、これらを是正しなければならないのです。

実利的な観点

ビジネス領域において、ダイバーシティがクローズアップされてきた背景には、実利的なメリットへの注目が高まってきたことがあります。

1つ目のメリットは、マイノリティが組織・社会へ参加することで、これまで埋もれていた人材・能力を活用できることです。

しかし、埋もれていたマイノリティの能力を掘り起こし引き出していくアプローチは、ある程度までは社会全体にとってメリットがあるのですが、次第に限界を迎えます。 なぜなら、スーパーな能力を持つ人が無限に埋もれていたわけではないからです。

そうなった時、ダイバーシティをメリットに繋げるために最近注目を集めている考え方が「文殊の知恵」型ダイバーシティです。

1つ目に紹介したメリットは、個人の能力をベースとして、有能な人がいるはずだから掘り起こしてみよう、という足し算のアプローチでした。

しかし、多様な状態は異なるものがぶつかり合ったり、時には対立し合ったり、お互いの相容れない部分をぶつけ合うことで化学反応を起こして新しいものを生みだす、というのが2つ目のメリットです。

ぶつかり合わず、これまで組織の中で幅を利かせていた考え方がそのままになるのは、過去の延長でしかなく新しいものは生まれません。

このように多様性に着目して組織をマネジメントしていくことが、ダイバーシティをメリットに変えていく非常に重要な考え方なのです。

そして、この考え方を浸透させるには、従来の組織で幅を利かせていた人や組織のあり方を変容させる必要があります。

なぜなら、これまで居場所のなかったマイノリティや取り上げられなかった考え方を組織の意思決定に組み込み、彼らが発言し、異論を唱え、自分の考えを表明できる状態をつくらないことには、ダイバーシティが実利的な文殊の知恵に代わる化学反応が起こらないからです。

そこで出てきたのが「インクルージョン」の考え方です。 単にダイバーシティを高めるだけでは、こうした化学反応が生じる状態には至りません。 ダイバーシティに加えて、社会的マイノリティを踏まえた多様な価値観、意見がそれぞれ尊重され、均等な機会を与えられること、すなわちインクルージョンをする必要があります。 だから、ダイバーシティは必ずインクルージョンとセットで考えられているのです。

「インクルージョン」を阻害するもの

D&I推進のメリットは明確なのにもかかわらず、浸透しないのが現実です。 その原因は大きく分けて、3つあると言えます。

マジョリティ性の壁

マジョリティとマイノリティには数の違いだけでなく、発言権・決定権など力の問題があります。 そのため、組織の意思決定を変えなければイノベーティブな科学反応は生まれません。 組織の意思決定をする側にいたマジョリティがその決定権を手放し、これまで尊重してこなかった意見や人に対して向き合う必要があるということです。

これは、組織全体にとってはメリットになるのですが、個人的な単位で考えると、これまでに築いた地位やアイデンティティが傷つけられる人がいる可能性があります。 今の状態を維持したいという心理的な防衛機制が変化をとどめることに繋がっているのです。

管理的思考の罠

組織を正しく運営するために必要とされてきた管理的な思考が、近年はダイバーシティを妨げる足かせになることが指摘されています。

管理的な思考の本質には、計画を立て、その通りに物事を動かすことで良い結果を生み出すという計算可能性に基づいたマネジメントが色濃くあります。 計算可能性を重視することは、計算不可能なものは重視しないということです。 ダイバーシティを進める上では、ぶつかり合いが起こるなど、短期的にネガティブ・リスクの要因となる可能性があります。そして成功するかどうかも計算不可能なため、ダイバーシティに後ろ向きになってしまうのです。

計算可能性に基づいた管理的思考のマネジメントは、ダイバーシティ推進を阻害する要因になるため、リーダーシップやマジメントスタイルを転換する必要があります。

近年は、サーバントリーダーシップなど新なスタイルが提唱されており、その中の1つがインクルーシブ・リーダーシップです。

新しいリーダーシップのスタイル

インクルーシブ・リーダーシップは近年注目されている考え方です。 この考え方の特徴は、リーダーのみでなく、リーダーとフォロワーを合わせたチーム全体でインクルーシブ・リーダーシップを実現していく点です。 特にビジネス領域においては、デロイトトーマツ氏が示した「インクルーシブ・リーダーシップの6つの特性」が広まっています。
① コミットメント
② カレッジ(勇気)
③ バイアスの認識
④ 好奇心
⑤ 文化的知性
⑥ コラボレーション

インクルーシブ・リーダーシップを実現するためには、トップダウンの垂直的な働き方を変えることが一つの方法として挙げられます。 リーダーは、チームを引っ張っていく存在ではなく、チーム全体の「リソース」になる必要があるということです。また、リーダーとフォロワーの関係性がインクルーシブな関係になっていることが重要です。 さらにマジョリティとマイノリティの不均衡を是正すること、あるいは、リーダーとフォロワーの関係性を変えるために、組織の文化を変える必要があります。

インクルージョンのための「リーダーシップ」と「組織文化」

私が属している東京大学のチームと複数の企業様で「インクルーシブなリーダーシップを可能にする組織文化とはどのようなものか」について共同研究をしています。

中でも三井物産人材開発様との共同研究により、組織には「男らしさ」を競う文化(以降職場MCCと記載)があり、大きな影響を与えていることが分かりました。 インクルージョンとの関係で言えば、「職場MCC」が高いと「職場インクルージョン」ではなくなるといった負の相関があります。

職場MCCは、男性的要素として強調される弱肉強食、弱さを見せてはいけない、仕事第一主義といったもので構成されています。そのため、組織の中で厳しい競争に勝つために必要な要素だと考えられる傾向にあります。 実は、この考えが有害なリーダーシップを生み、職場をインクルーシブではない状態にしていくことが確認されています。そのため、インクルーシブ・リーダーシップを実現するためには、男らしさを競う文化を変革していくことが必要となります。

組織文化に着目し、まずは皆さんの組織文化がどうなっているのかを知らなくてはいけません。知ったうえで、男らしさを競う文化がネガティブな要素として組織文化に存在しているのであれば、どのように変革していくのか具体的なアプローチを考えましょう。 そこがまさにダイバーシティ&インクルージョンの組織マネジメントを考えていく上での肝になるかと思います。

星加 良司 氏

東京大学大学院 教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センター 教授

1975年、愛媛県生まれ。5歳のときに小児がんで視力を失ったが、小・中・高校とも普通学校で学ぶ。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。東京大学先端科学技術研究センターリサーチフェロー、同特任助教を経て現職。主な研究分野はディスアビリティの社会理論、多様性理解教育。 著書に『障害とは何か』(生活書院、2007年)、『合理的配慮』(有斐閣、2016年【共著】)他。一般社団法人組織変革のためのダイバーシティOTD 普及協会理事/運営委員

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