2016年度新入社員労働に関する意識調査
2016.06.21
ツイート2016年度新入社員労働に関する意識調査
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分析
2016年度新入社員の中心的な弱みは、主体性・積極性の低さ、緊張感がなく学びを持続させる集中力が低い様子である。主体性の低さや積極性の弱さは昨年も同様に見られた項目であった。
また、リーダーシップの弱さや議論を避けたがる様子などは中心的弱みの周辺項目として挙げられている。
これらの弱さの根底には「そつなくこなそうとし、失敗を恐れる」があるものと思われる。ここで特に触れたいのは、新入社員にとって、そつなくこなす=平均値であり、ゆえに“目立つ”こともある意味、失敗と捉える可能性があることである。
よって、他者より劣ってしまうことは勿論、他者より勝る場合でも“目立つ”ならば避けるという傾向がある。リーダーシップを発揮する受講者が少ない、挑戦意欲に欠けているなどの指摘は、ここに原因があると思われる。講師コメント
●誰かが発言してくれる、誰かが質問してくれるといった受け身な姿勢が目立ち、何度も主体性を持って臨むことを促したが、まだまだ自身のこととして捉え切れていない様子が感じられた。
●全員の前で意見を言う、成果を発表することに対して消極的である。疑問点がないか確認しても声が上がらず、休憩時間に個別に質問に来る姿が多く見受けられる。
●意識が持続しないことが弱みです。「声が小さい」「表情がない」「笑顔がない」など指摘したことはその場で修正はできるのですが、しばらくすると元に戻る傾向があります。
●他者と比べて、自信が持てないと発言や積極性が無くなってしまうところがあり、失敗を恐れる傾向が見受けられました。
●積極的に全員に投げかける意見や雰囲気を牽引するリーダーがおらず、社会人として殻を破る必要を感じた。
●時間管理能力に不安を覚えます。終了時間のタイマー音が聞こえてもディスカッションを続けたり、休憩時間も研修再開直前まで大きな声で雑談する姿が見受けられました。
●ある程度までは努力しますが、それで良いと思って更なる努力を惜しむ姿も見られます。 -
分析
2016年度の新入社員の中心的な強みは、指摘事項に応え行動改善ができる素直さ、誠実で真面目な様子である。
この強みの周辺項目として協調性や習得意欲の高さが挙げられている。次頁「新入社員の弱み」で触れるが、主体性がなく失敗を恐れる傾向は昨年に引き続き強い。「素直さ」「真面目さ」の根底にも厄介事や不適切な行動を避ける意識があり、“正しさ”の枠組みに行動が制限されている事が考えられる。
対人行動も同様で、良好なコミュニケーションをとることができ、突飛な行動や目立つ意思表示で周囲を混乱させる新入社員は少なく、チーム活動を円滑に進めることができる。
また、理解力、思考力が高く課題の意図を汲み取った言動を見る事ができた。平均的な優秀さは、かつての「ゆとり世代」と一線を画す。講師コメント
●素直で何事にも真面目に一生懸命に取り組む姿勢が見られました。また指示や目的に対する実行力が高く、そのための習得意欲が積極的でした。
●素直な方が多く、一度の間違いの促しですぐに修正できる方ばかりでした。
●明るく良好なコミュニケーションがとれます。お互い話しやすい雰囲気を作るのが上手で、意思疎通に安心感があります。
●指導されたことはすぐに実践することができます。また、疑問点は質問して理解を深めようとする前向きな姿勢が感じられました。
●明るく元気で新入社員らしいフレッシュさがありました。協調性がありコミュニケーション能力も高いです。思考力は総じて高く、個人ワーク、グループワークとも的を射た結論に達していました。
●理解力、思考力が高く、個人ワークやグループワークにおいても意図を汲み取った発言ができている。
●論理的に考えをまとめて、わかりやすく伝えることができている。
- ●指摘事項に対して反発が少なく、躊躇なく改善行動をとることができる。
●指示に関連付けた+αの考えや、自発的な行動はとらず、あくまで指示内容に忠実。 - ●他者と比較されることを嫌い、自分の仕事に肯定的な承認を期待している。
●正解を求めるあまり、自信がないと、考えることや行動を制限し挑戦を避ける。 - ●一定の成果を上げる優等生だが、結果には一過性がある。
●人間関係を尊重し、親しみやすく好感が持てるが、価値観や意見の相違を避けるので、本質的な融和に至りにくい。
◆目標値の高低よりも、するべき事が明白であることを注視する
◆仕事に取り組んでいる間は、きめ細かく承認し、メンバーとして受け入れていることを表明する
指示や指摘事項に素直に反応して、行動改善や仕事に取り組むことができるのが、2016年度の新入社員の特徴です。また、取り組みの様子は真面目でひたむきであり、指示に対して誠実です。取組結果も一定の成果を上げることができ、安定感があります。
注意が必要なのは、目標の設定とフィードバックの仕方です。
目標は出来る限り具体的に提示して曖昧さが残らないようにします。彼らにとっては、目標の難しさや簡単さは大きな問題ではなく、努力すれば報われる道筋が立てられていることの方が重要です。
フィードバックは、肯定的であることに注意を払い、取り組み意欲を削がないようにします。叱らなければならない時も、なぜ叱るのかを合理的に説明し、周囲の環境にも気をくばるなど、思いやりが必要です。 職場に仕事以外のストレスがあることを受け入れがたく、人間関係の不和や納得のいかないルールには鋭敏に反応します。この規律性は自らの役割期待にも波及しており、目標値を超えて自発的に仕事をしようとは考えません。ビジネスパーソンとして憂う事態ですが、始めから多くを求めず、彼らに組織の一員として企業目標を共有する仲間だという自覚が確立されたとき、次段階の指導を開始するべきでしょう。
《調査を終えて》 2016年度新入社員育成の提言
2016年度新入社員労働に関する意識調査により、新入社員の働く意識の傾向が明らかになりました。
設問1.「会社の先輩や上司に何を期待するか」は「仕事以外の話しもできる雰囲気があるとよい」が49%と、次点の「マナーや仕事の進め方の基礎を教えてほしい」22%を大きく上回りました。昨年は、「マナーを教えてほしい」「仕事の以外の話しができる雰囲気」の順であり大きな変化と言えます。従来は、責任感や覚悟を強く感じている時期だと思うのですが、社会人としての心構えがまだ希薄なのかもしれません。良い雰囲気のなかでストレスなく成長したいという傾向は今後も更に強くなっていくのでしょう。
設問2.「働く上で重要だと感じていること」の回答でも、ストレスなく学びたい傾向が見られます。2016年の回答は「同期や先輩との良好な人間関係」45%、次点が「仕事がこなせる能力を身につける」34%でした。順位が昨年と反転し、良い「人間関係」が「仕事の能力」を上回りました。昨年は「仕事の能力」43%、「人間関 係」41%でしたから、「仕事の能力」は回答率も9% 下がったことになります。先輩社員の立場では、指導した新入社員が業務をこなしてくれないと人間関係も上手くいかないように思いますが、新入社員の立場では、先輩との良好な人間関係こそが、仕事を覚える前提条件ということなのでしょう。
設問3.「仕事をする上でモチベーションとなる事柄」では、下位回答に変化がありました。昨年もその傾向は見られましたが、今年はとうとう「給与・昇給・昇格」16%と回答した新入社員が「顧客満足」8%の回答率を上回りました。調査を開始した2014年は7.1%でしたので、2年を経て倍以上に増加したことになります。絶対評価のなかで自尊心高く成長してきたこの世代の特徴と言えるかもしれません。
また、今年、1位回答の「自己実現」36%と2位回答の「社会人としての成長」21% が15% の開きを見せたことも特徴的です( 昨年は6% の開き)。これは、2016年度の新入社員が個性を尊重した教育を受け、また、社会全体が、“個人主義”を聞こえよく、恰好よく扱っていることと無関係ではないでしょう。設問2.の働く上で重要なこととして、「仕事と私生活の両立」と回答した新入社員が昨年より4%増加していますが、同じ理由と類推されます。
ここで、登壇講師陣(70名)の報告書から分析した「強み・弱み」を見てみます。
まず、2015年度との比較ですが、回答の1位は、強み「素直である」、弱み「主体性・積極性・発信力」で昨年と同様でした。強み弱みは表裏一体で、素直である反面、主張がなく、キラリと光る反応がないとも言えます。ある講師の所感に、一人としてリーダーシップをとる受講者がいなかったとありました。弊社の研修は受講者がチームを組み討議やワークを行います。当然ごく自然にリーダーとフォロワーに分かれるものですが、それがなかったというのです。稀な例かもしれませんが、程度の差はあるものの、多くのクラスに同じ傾向が見られました。
70名の講師所感を読み感じたことは、2016年度の新入社員の行動原理は「そつなくこなそうとし、失敗を恐れる」ではないかということです。強みとして挙げられて いる「素直さ」「協調性」「習得意欲」「誠実・真面目」、弱みでは「主体性」「積極性」「発信力」「学びが持続しない」「議論を避ける」、どれもその場を“そつなくこなす”行動と言えます。
つまり、悪目立ちせず平均的に、その場の融和性を重視して行動すると「素直で真面目、協調性はあるが、主体性がなく、議論を避ける」ことになります。ある講師は「正解の枠のなかで小さく行動しているように思える」と所感を寄せました。全員が優等生で表面的に大きな問題はありませんが、場当たり的な過ごし方はいつか綻びを見 せるのではないかと思えてなりません。
※ 2016 年度新入社員における強み弱みランキング(n=1410)
強み:1 位「素直である」17%、2 位「チームワーク・協調性」16%、
2 位「思考力が高い」16%
弱み:1 位「主体性・積極性・発信力」37%、2 位「緊張感に欠け学びが持続しない」16%、
3 位「そつなくこなそうとし、失敗を恐れる」10%
2016年度の新入社員が受けた教育は、個性を尊重し、考える力や発想力を伸ばそうとしたものでした。どのような教育のもとでも、少数の優秀成績者とその他の一般 的な生徒の構図は変わりありません。変化するのは優秀さの定義でしょう。
5教科すべてで高い成績を収める優等生は勿論ですが、何かに特化して秀でている生徒を特に優秀とし、その才能を伸ばそうとした教育はかつてありません。徹底した思考力や特別な才能を尊重し、押しなべて優秀である必要はないという教育方針は、戦後の日本において、実に画期的でした。
しかし、その教育方針は成功を待たず、深淵に達する前に見直されました。残されたのは、世界で活躍ができるホンの一握りの優秀な人材と、多くの普通の学生達です。
この世代の多くの学生は個性重視の旗印の下、絶対評価と比較は悪であるという価値観を存分に蓄え、自尊心を備えて社会に出ます。自尊心は彼らに“失敗すること” を許さないのです。
設問4.「指示を受けた仕事で不明点があったときの対処」は昨年度と比較し、大きな変化はありません。研修受講後に実施する意識調査ゆえ、仕事の進め方、指示 の受け方がインプットされている場合もあり、上位回答の「指示を受けた人に確認」「周囲の人に確認」「調べて進める」は普遍的な回答と思われます。
ただし、2016 年度は「とりあえずやってみる」と回答した新入社員が、5%から8% に僅かですが上昇しています。やみくもでも「とにかくやってみる」という回答が増え たのは、少し面白いと感じます。来年以降の回答に注目です。
設問5.「あなたが先輩や上司から期待されていること」も昨年と大きな変化はありません。今年は「先輩を手伝い仕事を覚える」25%、「周囲をみて気配りある行動」24%と順位がつきましたが差は1%と近似値です(昨年は両者とも同率の27%)。
設問6.「将来、海外で働きたいか」の回答は、今年も「スキルが身に付いたら働きたい」に集中しました(48%)。現在の立場を学びの期間と認識していることが分かります。なお、彼らの概念の軸が個人主義で、自らの成長に最も関心があることも同時に汲み取る事ができ、かつての若者にあった会社への貢献意識は薄いと言ってよいでしょう。
以上の集計結果を受けて、ヒップスターゲートでは、新入社員および若手層に求める人材像を「答えのない課題に恐れず挑戦できる人材」とすることを提言いたします。
昨年の新入社員にも「失敗を恐れる」傾向がありましたが、知識を得ることには心底貪欲であったように感じます。卑屈なところがなく、自分達の未熟さを受け止め改善 していこうとする開放的な明るさがありました。
その点、2016年度の新入社員の「失敗を恐れる」価値観は、少し違っているように思います。「分からない」「自信がない」と感じると思考が停滞し、本質から逃れようとする面が見え隠れしました。まるで世の中に「正解」は一つしかないと思い込んでいるようです。
ビジネスに教科書はありません。答えは一つではなく、それぞれの挑戦の先にそれぞれの答えが待っています。私たちヒップスターゲートは、成功も失敗も本人の“舵とり” によって、新天地へ導く力強い航路となると信じています。2016年度の新入社員にも挑戦と実行を繰り返し、彼らなりの正解を導き出して欲しいと考えます。
「答えのない課題に恐れず挑戦できる人材」を創出するのが、私たちヒップスターゲートの使命と心得ます。