● 教育とは何か
新人の教育担当者が、いきなり研修計画をどのように立てるかを思い悩んでも、効果の見込める研修が組み立てられるようになることは、到底期待できません。
そこで、実際に計画を立てる前に、教育とは何かを考えるところからスタートします。
「教育」とは文字通りに読むと人を教え育むことではありますが、企業にとっての「教育」とは、例えば新入社員が今まではできなかった仕事ができるようになるために「教えること」と言えるでしょう。この「仕事ができる」ということこそが大事なことで、教育成果として仕事が新たに出来るようになったかどうかが分からないのでは、教育そのものの効果も分からないですし、もしかするとやっても意味のないことになり下がってしまうかもしれません。そこで、企業の行う教育について少し考えてみましょう。
● 1400年続く会社がどのように教えるか
日本で一番社歴の長い企業はどこでしょうか。そしてその年数はどれほどでしょうか。100年も続けば老舗とうたって商売をしているイメージがあるかと思いますが、なんと1400年の歴史を持っている株式会社金剛組という、578年創業の世界最古の建設会社(宮大工)が存在します。創業後の初仕事は聖徳太子から仕事を請け負ったというのですから驚きです。
世界一の台数を生産し誰もが知っているあの一流自動車メーカーの有名な逸話ですが、その会社の教育担当者が、1400年も続く会社がどのように技術を教えているのかと金剛組に見学(学習)に行った際、金剛組の担当者より「技術に関して一切何も教えていない」という説明を聞かされた時に自動車メーカーの社員は、呆れてなのか感服してなのかは分かりませんが、何も言わずに帰っていったというのです。「最良の教育とは、教えないこと」という言葉がありますが、まさに宮大工の仕事(世界)を表現した言葉です。
新人自らが1日も早い技術習得を誰よりも真剣に求め、その近道として先輩の仕事ぶりを盗むには、先輩の仕事一つひとつをしっかり凝視し、またそれを随時メモ等で記録していかなければ、早期に習得できぬことなど容易に想像できます。「先輩の背中を見て育つ」という言葉もこれに近いものがあるのです。
それと比べて、数日間の座学研修のみで手っ取り早く人を育てようとしても、3年後のパーフォーマンスには確実に大きな差が生じます。さらに最近ではDDK(誰でもできる化)活動という言葉をよく耳にしますが、人件費抑制を目的に誰でもボタンを押せばできるかのごとくに簡単にしようという動きがあります。確かに少人数で生産量変動に耐えうる体質作り等には適した活動なのかも知れませんが、こればかりに注力しすぎると仕事自体の価値低下や従業員の賃金低下など企業の活力低下を招く危険性を含んでいるので注意が必要です。
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