弊社ヒップスターゲートは、企業の成長や発展を担う存在である「次世代リーダー像とは何か」を探るべく、有識者の方々をゲストに迎え、2022年8月から12月にかけて全5回の無料オンラインセミナーを開催いたします。本記事は、2022年8月25日に開催した第1回セミナーより、『多様性を強みに繋げるインクルーシブ・リーダーシップとは』をまとめたものです。皆様のDE&I施策のお役に立てますと幸いです。
企業内のLGBTQ推進~多様な性のあり方を考える~
セミナーの目的様々な場面で、企業のDE&Iへの取り組みが重要視されるようになりました。
DE&Iを職場に浸透させるためには、組織のリーダーがDE&Iを理解し、多様性を強みに繋げるためのインクルーシブ・リーダーシップを発揮する必要があります。当セミナーは、その方法をお伝えすることを目的に開催いたしました。
DE&Iの視点からリーダー像に迫ります。
多様性のあるメンバーの能力を引き出し、組織パフォーマンスを高めるインクルーシブ・リーダーシップを発揮するためには、メンバー一人ひとりが個性を発揮し、そのうえで1つのチームとして成果を上げていくことが求められます。
1.なぜ「インクルーシブ」であることが必要なのか
2.リーダーシップをめぐる発想の転換
3.リーダーシップの新しいモデル
4.「インクルーシブ・リーダーシップ」のための組織診断
5.まとめ
1.なぜ「インクルーシブ」であることが必要なのか
ダイバーシティとインクルージョンの歴史
インクルーシブであることの意味をお伝えする前に、ダイバーシティの歴史的な背景に触れておきたいと思います。
1960年代に、女性の権利を主張する公民権運動や有色人種の権利を主張するムーブメントがありました。これが、これまで社会の中心から排除されていたマイノリティの人たちを社会の中に取り込もうとする、ダイバーシティの歴史の始まりです。 1990年代以降は、組織や集団のパフォーマンスを向上させる組織メリットの源泉としての意味合いが含まれるようになりました。多様性すなわち組織の強みというポジティブな考え方が広がり始めたのです。 そして、2000年代以降はダイバーシティの推進に加え、平等や包摂を高めていくエクイティやインクルージョンの視点をセットとすることが不可欠となりました。
エクイティとインクルージョンが登場した2つの背景
①規範的な観点
エクイティとインクルージョンが登場した理由の1つは、マイノリティがマジョリティと同様の機会を得て社会に参加し、自分の能力を発揮すべきであるという規範的な観点が注目されたことにあります。 ジェンダーギャップ指数が度々注目されますが、これに関しては日本の成績が非常に悪いことがよく言及されます。こういった指数・指標が問題視されるのは、組織が平等な状況であるかが重要視されているからです。
②実利的な観点
2つ目の理由は、マイノリティをいち早く取り込んだ組織の競争優位性が上がったことです。
これまで排除的な状態に置かれていたマイノリティの人たちの中には、極めて有能な人が存在していました。そういった人が先行企業によって確保されて以降、ダイバーシティを取り込むことで組織が強く変わるという考えが浸透しはじめたのです。これを我々は「人材活用型ダイバーシティ」と呼んでいます。
さらに、「文殊の知恵型ダイバーシティ」というものもあります。これは一人ひとりの能力が足し算ではなく、掛け算されることによって付加価値を生み出すことを指します。ポジティブな化学反応やイノベーションが生まれる環境を作るために、多様な視点や価値観を組織に取り入れる動きが見られるようになったのです。
これまでは、組織に存在していなかった考え方や価値観は、省かれたり潰されたりして、組織の力に変わる前に芽が摘まれていました。そうならないよう、適切な化学反応が起こる状態を重視したのがインクルージョンという視点です。
インクルーシブな組織に必要なこと
組織を形成してきた固定概念や先入観、惰性を善意に捉えると、伝統や歴史、社風と言い換えることができます。それらを全部ひっくり返す必要があるかは別として、そこに風穴を開け、変革を起こさなければなりません。
そのためには、多様な人が持っている視点と、それまで組織の中に埋もれざるを得なかったマイナーな意見の双方を反映していくことが必要です。その象徴的なものに意思決定が挙げられます。 組織における意思決定には原理原則が存在しています。本当は複数の人々が関わっているにもかかわらず、組織はあたかも1つの主体として市場に存在しています。そこにある意思決定のあり方を変える必要があるのです。 なぜなら、従来型の意思決定を温存すると、結局は組織の中で力を持つマジョリティの意見が通り、その状態が継続してしまうからです。
加えて、インクルージョンを実現するうえでカギとなるのが、一人ひとりの差異を尊重する文化を創ることです。 互いが自分との違いを認め、また認められることで正当なメンバーとして承認される感覚があるか、これがインクルージョンの観点では重要なのです。
2.リーダーシップをめぐる発想の転換
では、インクルーシブな組織を作るために、リーダーシップのあり方をどのように変革すればよいでしょうか。これについては3つの観点からご説明したいと思います。
マジョリティ性の壁
実はマジョリティは組織の変革を阻む大きな壁になっています。リーダーシップは、リーダー的な役割やポジションの人たちが組織の中心となり発揮されます。すなわち、組織では、力を持っているマジョリティの人たちの振る舞いが反映される傾向にあるということです。そのため組織を変革するにはマジョリティの行動原理を見つめ直す必要があります。しかし、非常にやっかいなことに、マジョリティは自己変革しづらいという大きなネックを抱えているのです。 なぜなら、組織や集団、社会の中で力を持っている人、つまり発言権や決定権を持っている人の多くがマジョリティであり、彼らが自分たちにとって有利な環境やルール、制度を前提に競争に参加できている可能性が高いと考えられるからです。 もちろん、マジョリティは社会でそれだけの力を持つだけの努力をして成功し、有利な条件を得たと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、力を持っているということは、物事を決める権限を多く持っているわけです。そうすると、組織においてルールを決める政治的なプロセス、社会における意思決定に大きな力をもって関わることができるわけです。人間という生き物には、自分が過ごしやすい環境や働きやすい環境、力を発揮しやすい環境を基準に社会全体あるいは組織全体のルールを決める傾向があります。 ひっくり返して考えてみると、マイノリティはそれだけ不利な条件を強いられていることになるのです。こうして格差が生まれることで、多様性におけるマジョリティとマイノリティの本質的、構造的な不均衡が存在してしまうのです。 ダイバーシティを力に変えてインクルーシブな状況を作るカギは、この不均衡の是正にあります。
管理的思考の罠
リーダーシップのあり方を変革するために必要な観点の2つ目は、管理的思考の罠です。 組織マネジメントの基本はリスクとコスト、ベネフィットの計算です。そしてベネフィットが上回るよう事業を展開して、組織を経営しマネジメントしていくわけですが、実はこの考え方がダイバーシティを組織に取り込む際の壁になっているといえます。 ダイバーシティはこれまで組織になかった考えや価値観を取り込むことを意味するので、ある種の計算不可能なリスクを抱えます。そうした異質を取り込むことによってイノベーションは生まれるわけですが、そのイノベーションはいつ、どういう形で生まれるかの計算ができません。 そうすると異質な価値観が見せるリスクだけが強調され、将来のイノベーティブでポジティブな可能性がどうしても矮小化されます。そのためダイバーシティに対する組織の意思決定は消極的になってしまうのです。
「ヒーロー/カリスマ」的リーダーイメージの罠
リーダーシップのあり方を変革していくために必要な観点の3つ目は、リーダーイメージを変える事です。 リーダーシップという言葉のイメージに引きずられて、リーダーシップはリーダーだけの問題と考えられがちですが、これがインクルーシブな組織づくりを阻んでいます。 リーダーがトップダウンで行うカリスマ的リーダーシップであろうと、リーダーがメンバーをサポートするサーバント的リーダーシップであろうと、結局はリーダーの振る舞いという考え方がまだまだ支配的だと思います。 しかし、インクルーシブな組織づくりのためには、インクルーシブされる側のメンバーが、どの様なあり方に変わっていくのかが大きなカギを握っているのです。 リーダーシップはリーダー個人に帰属するものではなく、リーダーとメンバーとの関係にある組織全体の人たちが持つものという、新しい視点を導入する必要があります。
リーダーシップの新しいモデル
本セミナーのテーマでもあるインクルーシブ・リーダーシップは、論者によって色々な使い方や概念化がされているので一筋縄ではいかないのですが、インクルーシブ・リーダーシップとは、今申し上げた3つの観点をクリアする、新しいリーダーシップモデルとして主張されています。
その定義のポイントとなるのがリーダーとフォロワーの関係性です。リーダーが個人として特性を発揮するのではなく、リーダーとその他の人たちとの関係性やあり方を改善していく、あるいはそこにフォーカスしたマネジメントスタイルを構築していくことが、インクルーシブ・リーダーシップである、というのが考え方の1つとして強調されています。
リーダーとフォロワーの双方向に求められる要素
こうしたマネジメントスタイルを構築するには、リーダーとフォロワーともに必要とされる観点が4つあります。それは、「リスペクト」「レコグニション」「レスポンシブネス」「レスポンシビリティ」です。 リスペクトは、お互いを正当なメンバーとして、それぞれの能力や資質、価値観などの違いを承認し尊重すること、レコグニションやレスポンシブネスは、お互いのニーズや主張に意味があり価値があることを前提に応答することです。また、レスポンシビリティは、仕事において行うべきタスクや役割に責任を持って組織を成り立たせていくということです。こういった考え方が互いに浸透しているかどうかも、インクルーシブ・リーダーシップに求められる観点として議論されています。
インクルーシブ・リーダーシップの異なる切り口からの定義
また、インクルーシブ・リーダーシップについて、他の観点からも定義付けすることができます。
コミットメントはリーダーや組織がインクルーシブな組織を作っていくことに価値を見出し、関与していく意思を示すということです。カレッジは、自分の弱みや組織にとってマイナスな部分と向き合う勇気を持ち、組織全体で共有することです。バイアスの認識は、自分自身にも組織全体にもバイアスがあることを認識し、多様な違いから、これまで自分にはなかったものが学習できるかもしれないと好奇心を持つことです。
また、自分の価値観は、偏った限定的な観点に基づくものであり、世の中にはそれ以外にも様々な観点、価値観があると適切に認識すること、これに加えて協力、協働性といったコラボレーションの観点がインクルーシブ・リーダーシップには必要だといわれています。
新しいリーダーシップの定義
これまでの定義を踏まえると、インクルーシブ・リーダーシップでは、垂直的ではない関係性を生み出す必要があることが分かります。個人の意識や行動に着目するだけでなく、組織全体の文化に着目する観点が求められるということです。 また、冒頭から強調をしていますが、マジョリティとマイノリティの間に不均衡が存在することを認識し、マイノリティの意見や視点を組織に取り込むことが重要です。そうすることで初めて組織にポジティブな化学反応が起こるのです。
「インクルーシブ・リーダーシップ」のための組織診断
これまでインクルーシブな組織を根付かせるためにインクルーシブ・リーダーシップを発揮するためのポイントを挙げてきましたが、現在私が所属する東京大学の研究室チームと、いくつかの企業との共同研究の中で、インクルーシブ・リーダーシップを醸成していくための組織アセスメントを開発し、組織変革に繋げるための研究を行っています。
欧米で行われていた研究の知見や、組織を変えるための要素を参考にしながら研究を進めているのですが、これらから主に3つの要素が組織変革において重要であることが判明しました。
診断ツールの3つの主な指標
アメリカの研究では、「男らしさを競う文化」「インクルーシブな風土」「有害なリーダーシップ」の3つの指標が存在していました。我々はこれをもとに日本の文化的な背景にフィットするように指標をアップデートしました。
男らしさを競う文化
男らしさを競う文化とは、男性性が組織の中で評価される文化のことを指します。具体的には強さとスタミナ、仕事第一主義とか弱肉強食、家父長制、官僚主義という要素に分節化することができます。男らしさを競う企業文化は組織のインクルージョンを低下させるという研究結果が顕著に出ています。
多様性の低い職場環境
協働意識やコラボレーティブに仕事を進める風土、風通しの良さ、あるいはハラスメントがない状態で一人ひとりの意見が反映されるコミュニケーションスタイルを取っているかが、多様性を支える職場環境であるといわれています。
有害なリーダーシップ
有害なリーダーシップには、権威主義、うぬぼれ、自己の売り込み、きまぐれ、放任、威圧的なマネジメントの要素が含まれています。こういったリーダーシップのあり方を変えていくことがポイントです。
3つの尺度の基本的関係
これら3つの要素が組織のインクルージョンにとってマイナス要素であることが、研究結果から明らかになっています。
とりわけ、男らしさを競う文化は、組織運営において悪いものだとは考えられてきませんでした。しかし、実はこれが多様性を支える職場文化を掘り崩すことが、研究から明らかになっています。さらにいえば、この男らしさを競う文化が有害なリーダーシップを高めるという結果が、欧米と日本の研究で非常にクリアな形で出ています。
そのため、男性性の競い合いを評価の軸とする組織文化であるのなら、それを変えることが、インクルーシブなリーダーシップを実現する肝になるといえるでしょう。
まとめ
ダイバーシティを組織に含み、力に変えていくには、組織の中にある力を転換しなければいけません。それを可能にするための具体的なマネジメント手法として注目されているのがインクルーシブ・リーダーシップです。 本セミナーでは詳細にご紹介しませんでしたが、インクルーシブ・リーダーシップに関する現状の到達度を認識することは、インクルージョンな組織の実現のために非常に有効です。また、そこで明らかになった問題を着実に改善し、よりインクルーシブなものに転換しているかを確認できるアセスメントやモニタリングの仕組みを組織に構築することが、イノベーティブな価値を生み出すために必要なのです。
星加 良司 氏
東京大学大学院 教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センター 教授
1975年、愛媛県生まれ。5歳のときに小児がんで視力を失ったが、小・中・高校とも普通学校で学ぶ。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会学)。東京大学先端科学技術研究センターリサーチフェロー、同特任助教を経て現職。主な研究分野はディスアビリティの社会理論、多様性理解教育。 著書に『障害とは何か』(生活書院、2007年)、『合理的配慮』(有斐閣、2016年【共著】)他。一般社団法人組織変革のためのダイバーシティOTD 普及協会理事/運営委員アーカイブ配信の申込
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