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「ビジネスや施策にLGBTQの視点を」 多様性重視の潮流のなか、企業に求められていること

2023.10.25

昨今のLGBTQに関するトピックとして下記が挙げられます。
・SOGIハラスメントやアウティング防止対策
・トランスジェンダーの方々の施設利用における合理的配慮
・広告やSNSなどによる社外への情報発信における配慮

このような変化を素早くキャッチアップし、社内外に向けた制度の整備や従業員に対する社内ルールの周知など、ダイバーシティ推進のご担当者の皆さま求められる役割は多岐に渡っているかと存じます。そのような変化への迅速な対応、先手先手の対応策を講じることで得られる先行者利益は顧客の獲得や優秀な人材の確保など、重要性は益々高まっていくことでしょう。今回は、レインボーノッツ合同会社 代表の五十嵐氏をお迎えし、企業におけるSOGI/LGBTQ推進のステップだけでなく、様々な企業の取り組み事例を解説いただきました。

セミナー名

知る×学ぶ×深める =より良い社会をつなぐ虹の懸け橋となるために 「企業内LGBTQ推進セミナー」

性の多様性とLGBTQ

性を構成する4つの要素

性は4つの要素で構成されています。

・性別

身体上、戸籍上の性別を指す

・性自認

自分で自分の性別をどう認識しているか

・性的指向

誰を好きになるか、誰に対して関心が向くのか

・性別表現

自身のあり方を外側に向けてどう表現したいですか

これら4つの要素の掛け合わせで1人の性のあり方が決まっていきます。私は「性別」と「性自認」が女性です。そして、「性的指向」が女性に向く女性の同性愛者となり、ここにレズビアンという名前が付きます。「性別」と「性自認」が女性の多数は異性に「性的指向」が向きますが、私は同姓に向くマイノリティ(少数者)の1人です。

SOGI(ソジ)

「性的指向」Sexual OrientationSO、「性自認」Gender IdentityGIの組み合わせで、二つの要素を一言で言える便利な言葉です。

LGBTQ+(性的マイノリティ)について

LGBTQとは、下記のことを指します。
L:レズビアン」は女性の同性愛者です。
G:ゲイ」は男性の同性愛者です。
Bバイセクシャル」は「性的指向」が男女どちらにも向く方を指します。
T:トランスジェンダー」は、戸籍上の「性別」と「性自認」が異なる方を指します。
Q:クエスチョニングやクィア」は、 「LGBT」では説明しきれない非常に多様な性のあり方のことを指します。
さらに「+」をつけることで、誰も取り残されないように表現する考え方が浸透してきました。

LGBT」という表現でも間違いではありませんが、どちらかと言えば 「Q」または「Q+」を追加してお話になるとよいでしょう。

LGBTQの人たちの割合

様々な機関・団体・企業の調査によると、LGBTQの割合は、およそ310%の幅になっています。今後、社内や職場での施策を考える際に、全体数に3%をかけて、どのくらいの人たちがいるか考える目安に使用してください。

LGBTQに関する世代間格差

LGBTQに関して世代間の数字の違いを公表しているデータをご紹介します。
・自身の性的指向・性自認について

回答全体の平均値は「LGBTQ」非該当者のストレートが93.3%と、LGBTQ9.7%です。10代ではLGBTQ19.2%と回答しています。この調査結果を見る限りでは、10代の2割近くがLGBTQである、またはそうかもしれないと思っていると回答しています。

・カミングアウトの経験
複数人または一人だけにカミングアウトしたことがあると回答した割合は、全体では20数%ですが、10代では大幅に数が増えます。比べて、50代以上は9割以上が誰にもカミングアウトしていません。このことから、LGBTQは世代間でギャップが生じているテーマであることが分かります。

職場で直面した困難について

埼玉県は、「LGBTQ」該当者に職場で直面した困難についての調査データを公開しています。

最も多かった回答は、「性的マイノリティではないものとして振る舞わなければならないこと」で26%を超えています。

私も当事者であることは伏せて仕事をしており、レズビアンであることは公表しない、したくない、するべきではないと思っていた時期があります。

しかし、そうするとプライベートのことが話せなくなります。職場の方と人間関係を作る際に、プライベートを一切伏せて話すのは難しいです。時には、男性と付き合っているふりをしたこともありましたが、ずっと嘘をつき続ける罪悪感に包まれていました。

いつも助けてくれる同僚、尊敬する上司に私は嘘をついているという罪悪感、居心地の悪さから、好きな仕事でしたが5年ほどで会社を辞めるという決断をしました。

同じような経験をしている方がおそらくどの職場にいると思いますし、このデータを見る限りでも、少なくない方が同じような経験しているのが分かるので、大変胸が痛いデータになっています。

深刻なアウティング被害

アウティングとは、本人の了承なく第三者へその方の性的指向、性自認を暴露する行為です。大事な個人情報ですので、本人の了承を得て、 コントロールされるべきであると認識することでアウティングを防ぐことに繋がります。

アウティング被害を受けた方が命を落とすケース、または職場でこのアウティング被害を受けた方が労災認定されたケースも出ています。社内で理解促進の取り組みをする際は、アウティングを防ぐ視点でも進めていただきたいと思います。

アンコンシャスバイアスとLGBTQ

アウティングが起こる原因の1つが アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)です。

アウティング防止、SOGIハラスメント、性的指向、性自認に関わる嫌がらせ、いじめ、からかいには、アンコンシャスバイアスが大きな鍵を握っています。 

日常のいたるところで起きている「アンコンシャスバイアス」

「今どきの若者は」や「男のくせに、女のくせに」、「未婚の人に対して、1人前じゃないと感じる」、「親が単身赴任中ですと聞くと、父親が単身赴任中だと思う」、こうした事例にはアンコンシャスバイアスが含まれると言えます。

このようなことが職場では起きていませんでしょうか。

例えば、「ついこれまでのやり方、前例に固執してしまう」「LGBTQの人たちはトイレに困っているのではと思う」「LGBTQと聞くとテレビでよく見るオネエタレントを連想する」、または、未婚の男性に見える人に対して、「あの人いつまでも独身だけど、もしかしてという噂が聞こえてきた」ということもアンコンシャスバイアンスとは決して無関係ではないお話です。

なぜ人は、無意識の思い込みをしてしまうのか

無意識の思い込みをする理由の1つに、「自己防衛心から来る心理」が挙げられます。 脳がストレスを回避するために無意識に自分にとって都合の良い解釈をするのです。

その解釈のベースにあるのはこれまでの経験や知識です。これまでの経験を判断軸とし、 人は高速思考で判断・評価しています。

アンコンシャスバイアスは誰もが持っており、なくすことはできません。
アンコンシャスバイアスがあること自体は問題ではなく、気づこうとしないことが問題です。

アンコンシャスバイアスへの対処法

アンコンシャスバイアスへの対処は、気づいていない思考の歪みや偏りがあることを自覚することが大事です。

「思い込み、決めつけ、押し付け」をしていないか検証をしましょう。検証には知ることが大事です。 今回で言うと、LGBTIQの知識を理解することです。

その上で、自分の価値観や経験値に歪みや偏りがあるかもしれないという自覚を持つことと気づくことができます。

もし良い行動ではなかったと思う経験があったら、行動を修正していきましょう。「知る→気づく→行動」のサイクルを回していくことが、アンコンシャスバイアスへ対処法となります。

LGBT理解増進法」について

本法律に関する前提

国連人権理事会は2011年、2014年に「 性的指向及び性自認を理由として個人に対して行われる暴力と差別のすべての行為に重大な懸念」を表明する、SOGI決議を採択しました。

2017年、2020年にアカデミックの最高法である日本学術会議が2つの提言を性的マイノリティの文脈で出しています。学術の視点で、この性的マイノリティの方々の権利保障をどう進めていくべきかという大変示唆に富む内容になっています。

 そして、東京都をはじめ全国69の自治体で性の多様性に関する条例がすでに制定されています。そのうち65の条例に関しては差別禁止が明記されています。

東京都では、オリンピック憲章に謳われる人権尊重の理念実現のための条例があり、明確にSOGI差別の禁止が表記されています。

国際社会の反応として

今年、元秘書館による差別的な発言のニュースが駆け巡りました。

差別発言を受けての更迭によって、国連の報道官が記者会見で「事務総長は嫌悪(ヘイト)に強く反対しおり、誰を愛し、誰と一緒にいたいかを理由に誰も差別されてはならない」「どのような場合でも性的指向や性自認を理由にした差別は許されない」と公式に発言しています。

G6」とEU代表部、各駐日大使による岸田総理へのプライベートレターでは 「差別から当事者を守ることは経済成長や安全保障、家族の結束にも寄与する」ということを連名で書簡を岸田総理に送っています。

このような動きから、国際社会においてもLGBTQを含めた多様性の重視は国際的な潮流であることは明らかです。

このような中、今年5月にG7広島サミットが行われました。首脳声明にはLGBTQの人権保障の実現が明記され、「性自認、性表現、性的思考に関わらず、暴力や差別から解放され、生き生きとした生活を享受できる社会を実現する」と国際公約しています。

国際的な流れと首脳声明により、20236月に「LGBT理解増進法」が可決されました。個人的には国内外からの色々なプレッシャーによって、こうした動きにつながったではないかと捉えております。

法律が事情主にも求めていること

法律が事業主に求めていることは、「普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等を行うこと」、 「国または地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する政策に協力する」ことです。

日経新聞では、経済産業省のトイレに関わる裁判や判決を受けて、修業・就労環境を整えることを謳っています。法律の制定、経済産業省に関わる判決を受け、日経新聞が性的少数者に対する人権保障や就労環境の整備が大事であることを訴えています。

法律に関しては以上ですが、今後、法律に関する動きとしては、約1年間をかけて、基本方針を定めていくことになります。その後に約半年かけて指針が決まると聞いております。8月に省庁連絡会議が開かれ、様々な関係省庁が、児童に関して情報交換をしている様子の議事録も公開されています。経済団体や労働組合においても、推進するスタンスを表明している状況です。ぜひ、法律をご自身の企業の中で取り組みを進める上での後ろ盾として活用していただきたいです。

コンプライアンスの観点から

今年7月に、経済産業省に勤めるトランスジェンダー⼥性の職員が、職場における⼥性⽤トイレの使⽤を制限されているのは不当だとして国を訴えた裁判で、最⾼裁判所は、トイレの使⽤制限を認めた国の対応は違法だとする判決を⾔い渡しました。

職場の事情、状況、人間関係等々がありますが、 この訴訟の判決の骨子、または、5人の裁判官全員が補足意見を述べるという異例のケースになりました。この補足意見は、今後の取り組みの示唆に富む内容になっています。

私が注目した裁判官の補足意見は、「自認する性別に即して社会生活を送ることが誰にとっても重要な利益であること」です。皆様方の職場で同様のことが起こったらどのようにしたらいいかを今から考えておくと良いかと思います。

職場におけるパワハラ対策が義務化

パワハラ防止法の改定に伴って、SOGIハラスメントやアウティングがパワーハラスメントの中に含まれることが指針で示されています。SOGIハラスメントは、性的指向、性自認に関わるハラスメントを指しています。アウティングは、本人の了承なく、第三者やその人の性的指向、性自認を暴露する行為です。これらがパワーハラスメントにあたることが示されました。

 職場における具体的な事例

職場における具体的な事例で労災認定されているケースも随分出てきました。

一部の事例として、「上司による性的指向に関するアウティングで精神的苦痛を与えられた」ケースが労災認定されたと先日ニュースになりました。

こうした労災認定される前にどのように防止すればよかったのか、どのような取り組みが必要だったのかという視点でぜひ考えていただきたいです。

最近の事例から

キーワードは、連携、シェア、ネットワーク

P&Gが発行しているインクルーシブショッピングという冊子があります。LGBTQの方が安心して買い物できる環境作りのために何を行うのが良いのかが、わかりやすくまとまめられています。小売店と連携で冊子の制作に取り組み、ホームページで公開されています。こうしたツールをシェアしていくことは、非常に大事な取り組みと感じます。

組織の枠を超えた連携、ネットワーク

最近では、組織の枠を超えた連携ネットワークも広がってきています。

例えば、三井住友信託銀行が渋谷区と一緒になって、LGBTQ当事者が安心して暮らせる社会の推進に関する連携協定を結ぶケースが出てきました。

 20237月には渋谷レインボーミーティングというタイトルで、渋谷区を拠点とする企業が中心となり、LGBTQの方を題材にした映画「手のひらのパズル」をみんな視聴、そして感想交換会のようなものが開催されました。

自社の施策を進めるためのアイデアを発見できたり、情報交換ができるような土台が作れるのではないかと感じる事例でした。

法整備への賛同表明も増加

最近は企業の法整備への賛同表明の声も増加しています。

今、3つの企業賛同を募っているものがあります。LGBT平等法の実現を求めるビジネスによるLGBT平等サポート宣言、それから、婚姻の平等の実現を求めるビジネスフォーマルチクオリティ、 そして、性同一性障害特例法の要件緩和の実現です。

まとめとして

備えておきたい視点として

取り組む上でも4つの前提があります。

  • SOGIは重要な人格的利益、個人の意思、努力によって変えられない本質的な属性であること
  • SOGIは機微な個人情報であること
  • SOGIは多様であること
  • 多数派と異なるSOGIであることは「異常」とはみなされていないこと

 4つの前提を踏まえた上で、具体的な対応のための2つの観点「合理的な配慮という視点での取り組み」と「差別解消に向けた視点」を念頭に置くと、今後の取り組みを有効的に行えるかと思います。

企業で広がる「あなたもアライに」

アライとは、差別や誤解による言動を客観的に正す、LGBT当事者が直面する問題、ニーズを代弁するなど、支援者を意味する言葉です。

アライが職場で見えてくるようになると、LGBTQ当事者の方々の勤続意欲が上がる、あるいは周囲の方々の理解度と行動度も上がるということが調査によって明らかになっています。 アライの見える化、あなたもアライになろうとの呼びかけは、とても良い施策につながると考えています。

 

 

レインボーノッツ合同会社 代表
五十嵐 ゆり 氏

2012年、LGBTQ支援団体としてRainbow Soupを発足。2015年3月にNPO法人化し代表に就任、レズビアンであることを公表。2015年7月、アメリカ国務省が主催するIVLP(International Visitor Leadership Program)のLGBTプログラム研修生に選抜され、全米各地を訪問。2017年8月、オランダ・アムステルダム市より招聘を受け「international guests Amsterdam Pride 2017」プログラムに参加。2018年、レインボーノッツ合同会社を設立。当事者としての経験や関連の最新情報などをベースに、SOGI・LGBTQをテーマにした研修・コンサル・社外相談窓口を展開する。全国各地の企業・自治体などでの実績多数。2019年〜2023年6月、一社LGBT法連合会理事、2023年4月より、プライドハウス東京・4共同代表に就任。全国各地のLGBTQ支援団体や専門家と連携しながら、政策提言や情報発信などの活動に携わる。

 

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