AI技術の現在
AI技術はディープラーニング、つまり脳に似せた仕組みを使って、自律的に抽象的な情報を分析する技術を中心に開発が進められています。
音声認識や画像認識、自然言語処理の分野から実用化が始まっています。例えば、iPhoneの「Siri」、羽田空港の帰国手続用「顔認証ゲート」、証券会社や投資運用会社の「ロボアドバイザー」のように、AI技術は着実に人々の生活に根付きつつあります。
AIが代替できない仕事―「営業職」
総務省『平成28年版 情報通信白書』では、AIで代替できる仕事は、会計事務や生産工程をはじめとする定型的業務をはじめ、将来的には非定型業務の中でも知的業務や複雑な手仕事業務にも広がるという見方が示されています。
野村総合研究所でも、2015年12月2日付のニュースリリースにおいて、日本国内601の職業を分析した結果、技術的には日本の労働人口の約49%がAIやロボットに代替される可能性が高いことを発表しています。
しかし、この見方は非定型業務の中にはAIが担うことができない業務が残ることを意味しています。その典型的な仕事が「営業職」というわけです。営業職は、AIでは実行不可能な領域に対して、ヒトだけが持つ力で行う仕事であると言えます。
そもそも営業職の仕事とは?
営業職の果たすべき最大の役割は、「企業と顧客をつなぐこと」です。営業とは、企業が提供するサービスや製品を熟知した上で、あらゆるビジネススキルを駆使して顧客にアピールし、利益を確保することであるのは、ビジネスパーソンであれば周知の事実でしょう。
営業活動に際しては、その後の取引を安定的に継続するために、顧客側にもメリットがあるWIN‐WINの関係でなければならないのは言うまでもありません。
AIの苦手傾向―データや数字で処理できない“曖昧さ”のある仕事
上述の野村総合研究所のニュースリリースでは、AIやロボットによる代替が難しい職業の傾向を、以下のように紹介しています。
① 芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など、抽象的な概念を整理・創出するための知識が求められる職業
② 他社との協調や他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業
営業職は、まさに②の職業に該当します。
AIが代替できない営業の仕事―人間力やビジネススキルが必要
現時点では、どれだけAI技術が進歩しても、AIやロボットが現在の営業パーソンのようにふるまうことはできないと判断されています。実際のビジネスシーンを思い起こせば、この事実は明らかです。
AIが顧客と円滑なコミュニケーションを図ったり、顧客側の真意を斟酌したりすることはありません。顧客の財務状態と成長戦略に理解を示し、環境の機微を察知して顧客の課題解決や企業成長に貢献できる提案をすることもありません。
顧客が取引を躊躇しているときに、AIが相手の顔色を見ながらあと一押ししたり、交渉を持ちかけたりすることも不可能です。
ましてや、定期的に顧客を訪問し、相手の話に真摯に耳を傾ける、あるいは何気ない会話から困りごとやニーズを汲み取って受注に結び付ける御用聞き営業などは、AIには到底できる仕事ではありません。
これが、AIやロボットが持ちえない、ビジネスにおいて“ヒト”だけが行使できる「人間力」や「ビジネススキル」なのです。
営業職の心得 人間力を磨いてAI技術を駆使する側に立つこと
繰り返しになりますが、AIは今も近い将来も、人間の仕事を100%代替できるわけではありません。AIは膨大なデータ処理や分析・解析は得意ですが、相手の立場を思いやる、空気を読む、あるいは交渉するといった仕事はできません。
AIやロボットが代替できない営業職は、ヒトとヒトのやり取りの上で成り立っています。営業パーソンが介在しなければ、利益に結び付かない場合もあります。
AI時代に生きる営業パーソンにとって重要になるのは、第一に営業職の存在意義を積極的に受け止めて、経験や研鑽を積んでAIやロボットが持たない人間力やビジネススキルを向上させること。そして、その技術をビジネスの場で実践して成果を上げることでしょう。
第二に重要なことは、AI技術を自分の武器にすることです。AIが得意とするデータ分析・解析能力を活用して入念に顧客の財務分析を行い、問題解決のための最適なアプローチを提案するなど、AI技術を営業に活かせる場面は少なくありません。
やがて、AI技術が革新的に進化を遂げて、人間の脳のように柔軟な判断を下せるようになるかもしれません。そんな時代が来ても、常に“ヒト”にしかできないことに全力を尽くす姿勢こそが、ヒトが生き残る道なのではないでしょうか。
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